紙一重

 (セドリックの同僚同級生A視点)

 我が寮ハッフルパフには完璧超人がいる。
 セドリック・ディゴリーは顔良し、頭良し、性格良し、運動神経良しの羨む気もなくなるくらいの完璧な男だ。
 もちろんそんな超人だから友達にも多く先生からも気に入られ女子にもモテる。

 けれどそんな男でさえ、悩みはあるようで。


 それはホグワーツ一年生の時だった。
 魔法史の授業中、みんなが退屈な講義に寝入る中、もちろん俺もうとうとしながらもふと隣を見てみると俺の隣に座っていたセドリックは窓の外を見ていた。セドリックはいつも魔法史の授業は窓際の席に座っている。
 外を見ると同学年のスリザリンとグリフィンドールが飛行術の授業をしていた。危なっかしいながらも空を飛ぶ中でグリフィンドールの双子が得意気に空を飛び回っている。
 俺は箒が好きなので羨ましく思った。つまらない魔法史より箒で空を飛んでいた方がどれだけ有意義なことか。
 セドリックも飛行術が得意だからきっと俺と同じように外の奴等が羨ましかったのだろうとその時は思っていた。

 セドリックと夕飯を食べるために食堂に行く途中、一人の女の子がいた。
 見るからに育ちの良さそうな佇まいの女の子だった。スリザリンらしい。
 セドリックはその子に女受けの良い爽やかな笑顔で「こんばんは、ミリア」と話しかけた。
 知り合いかと思った。
 けれど彼女はチラリとセドリックを見ると、目を反らしてそのまま去って行った。

 ん?

 どういうことかと思いセドリックを見ると、残念そうな様子であの子の背を目で追っていた。


 どうやらうちの完璧超人はスリザリンの子に恋をしているらしい。


 なぜそこまでミリアにこだわるのかは知らないが、セドリックはずっと一途にどんなに冷たくあしらわれようと諦めずに彼女を追い続けた。




 「アルフ、これから図書室に行ってくるね」

 「ああ、行ってこい」


 どこかウキウキした様子で図書室に向かうセドリックの目当てはいつも図書室にいる思い人だと考えるまでもなく知っている。
 きっと今日も勉強というのを口実に彼女の近くにいるつもりなのだろう。

 セドリックの好意はあらかさま過ぎる。だからもちろん俺以外にも彼の恋を知っている奴もいるし。
 ミリアを羨ましがる女も少なくはない。だからセドリックの恋の邪魔をする女もいるわけで。

 先日もセドリックがミリアに話しかける前に声をかけてミリアから遠ざけていたのをその隣で見ていた。それでも困ったような顔で紳士に相手をしているセドリックはどれだけ性格が良いのかと思ったが……。

 完璧超人も大変だと思う。

 けれど、逆にセドリックは完璧超人で良かったなとも思う。




 「ミリア、これから図書室に行くの?」

 「……ええ。さようなら」


 明らかに迷惑そうにチラリとセドリックを見て簡単に挨拶?をしてから去っていくミリアに、返事を貰えて嬉しそうなセドリックを見て。

 もしこれがただの普通以下だったらただのストーカーだなと思った。


 「セドリックは顔が良くて良かったな」

 「そんなことないと思うけど。いきなりどうしたの?」


 しみじみと言う俺にセドリックは首を傾げた。

 そう思うと本当に羨む気もなくなる。

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