想定外
※エンド後推奨
(リル視点)
僕には1人誰にも言えない秘密の従兄がいた。
スチュワート兄さん。スリザリンで僕より二つ年上の人だ。兄さんの母親が僕たちの父の妹である。
けれども従兄弟にも関わらず、僕は公の場でスチュワート兄さんに話しかけることができない。スチュワート兄さんの父が昔例のあの人を裏切ったため、それを知られれば裏切り者の息子である兄さんに危害が及ぶかもしれないからだ。
僕としては心配のし過ぎかとも思うけどその決まりを作った僕の父はそれだけ兄さんを失うのを怖れた。
父は妹である叔母をとても愛していたらしいから全てを失う可能性を嫌ったのだろう。
まあ僕もスチュワート兄さんのことは好きだからそこは我慢するけど。
数年に一回忍んで両親に会いにくる時にしかきちんと話せないのはあまり快くない。昔は特にそうだった。
スチュワート兄さんには一人同じ寮に友達の女性がいた。
ミリア・ファスト。名のある家系のお嬢様でクールな女性だ。
二人はよく一緒にいて傍目から見ても仲が良かった。
僕はそんな彼女に嫉妬していた。僕だって彼女のように兄さんと話がしたかったし、当たり前のようにそばにいる彼女が羨ましかった。
だから僕は一年の時、ミリアが授業に向かう途中に話しかけた。
「ごめんなさい。僕、先生に頼まれていた教室が分からなくて。教えてくれませんか」って。猫を被って迷子の可哀想な一年生を装った。
これは彼女が嫌な人だと確信するためだ。
冷たい印象の彼女は人にあまり優しくないと知られている。だから僕は彼女がこんな可哀想な僕を無視してさっさと立ち去ると思っていた。
けれどミリアは立ち止まると僕を冷えた視線で見て、「どこに行きたいのですか?」と聞いてきた。
そんな彼女に僕は少し怯んだけど、最初から用意していたマイナーな口では説明しにくいここから少し離れていて案内したら授業に遅れることが確実な教室を言った。
なのに予想はハズレた。
「分かりました。なら教えますからついてきてください」
「え?」
驚く僕を尻目にミリアは先を歩き始めた。
あまりにもあっさりと案内してくれるので僕は慌てて彼女の後を追う。
「あ、あの。貴女の授業は大丈夫ですか」
「別に構いません」
そうそっけなく言うミリアだったけど。優しさなんて感じないものだったけど。
彼女は最後まで僕を案内してくれた。
「もう、なんなの!すごく腹立つ」
その後、僕は同学年のグリフィンドール生のネビル・ロングボトムを捕まえてミリアとの先ほどの話を聞かせた。
ムカつきながら話す僕にオロオロとするネビルに構わず僕は思いの丈を遠慮なく言う。
大人しく弱いネビルだけどちゃんと僕の話を聞くから僕はネビルのことは好きで友達だ。
猫を被らなくても否定をしないし楽だしね。
「何普通に僕を案内してるんだろ、あの人。これで優しくない人なら僕はあの手この手で邪魔してやろうと思ったのに!もう何、気まぐれなの?必要ないし!」
僕がぎゃあぎゃあ言うのを黙って聞いていたネビルは、躊躇うようにけれども口を挟んだ。
「ミリアさんは冷たい人だって思われがちだけど。けどいい人だよ。僕が階段から落ちそうになった時は転ばないように手をとってくれたし、落とし物をしたら拾ってくれたし。道に迷っていたらさりげなく教えてくれたし」
「はあ?僕はそんなこと聞いてないし!ってかどれだけあの人に迷惑かけてるの」
「ご、ごめん」
謝るネビルにフンと顔をそらしながらも、僕は悔しくて堪らなかった。
嫌いになりたかったのに少し好きになったじゃないか。
なんなの、本当に腹が立つ!
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リルは下級生の時は一人称僕です。
後輩ができてきてから俺になります。
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[mokuji]