嘘つきガス
(セドリック視点)
朝、ミリアと一緒に魔法省へ出社するとエントランスホールに一枚の大きな張り紙が張ってあった。
『今朝エントランスホールに撒かれた“嘘つきガス”の影響でエントランスホールに入った人は一時間の間嘘つきになってしまいますのでご注意ください』
“嘘つきガス”、確かそんなものがウィーズリー・ウィザード・ウィーズに売っていたけれどそれを誰かが撒いたのだろうか。
書かれた紙を読んでから隣で同じように張り紙を読んでいたミリアへ視線を移すと、ミリアも読み終わったようで僕の方を見た。
「セドリック、大嫌いですよ」
「……え?」
ミリアの突然の言葉に僕は驚いたけど、ミリアは「なるほど、本当に逆の言葉になるのですね」と真面目な表情で頷いている。
ちょっと待って。今、もしかしてミリアは反対の言葉を言ったのだろうか。大嫌いってことは……。
「えっと、ミリア。今のはなんて言っていないの?」
僕も試しに声に出してみると、“なんて言ったの”がやはり反対の言葉になる。
つまりさっきのミリアの言葉は“大好き”だったのだろう。
付き合ってからも恥ずかしがってあまり言ってくれない言葉がきちんとした言葉で聞けなかったのは残念だ。
僕の質問にミリアは少し顔を染めて首を横に振った。
「……恥ずかしいのでもう言いません。このガスの効果は嘘というより話す言葉が逆になるようですね。気をつけましょう」
もう対処の仕方を把握したらしいミリアはきちんとした言葉で僕に言った。
だから僕も賢い恋人を見習い気をつけて話す。
「そうだね。……ねえ、ミリア。やっぱり僕はさっきの嘘の言葉をきちんと聞きたいからこのガスの効果が終わってから聞かせて欲しいんだけど。ダメかな」
ミリアに頼んでみるとミリアの顔色は更に赤くなった。
「良いです……じゃなくて嫌です。セドリックは、言ってくれない恋人は嫌ですか」
断ってから不安そうに尋ねるミリアが愛おしくて僕は指通りの良いミリアの髪を梳いた。
「ううん。ごめんね。無理をさせるつもりはなかったんだ。君がこういうことを言うのが苦手だって分かっているから、言えないのなら構わないよ」
「……あ、あの」
「うん?」
「二人きりになった時に改めて言いますから」
……。
耳まで真っ赤に染めてそう言ってくれた僕の恋人が可愛すぎて、本当にツラい。
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