旅行

 スチュワートから手紙が届きました。
 私はそれを自分の部屋のベッドへ腰掛けて読みました。

 彼は学生は夏休みの今、スイスで家族旅行をしています。
 送られてきた写真の真ん中には美しい山を背景に眼鏡も無精ひげもなく髪もさっぱりと短くなったスチュワートがいます。
 そして彼の両脇には両親、さらに両端にはスネイプ先生とシリウス・ブラックが写っています。
 スネイプ先生はヴォルデモートの蛇に噛まれたもののスチュワートの手助けもあり命を取り留めました。恩師が生きていて良かったです。

 そして驚くことにシリウス・ブラックも無事でした。
 神秘部で死の魔法を受けて死んだかと思っていましたが、シリウスはスチュワートの守護霊の魔法の稀に起こる副作用により死んではおらずに仮死状態だったそうです。
 それをちょうど解毒薬を持っていた私の親が助けました。解毒薬は貴重でもうないそうですが。

 そんなご都合主義なことが現実に起こったことに驚きましたが、それでも死なずに良かったです。

 そしてまた、シリウスはスチュワートの叔父だったそうです。
 神秘部の戦いで薄々知り合いではないかとも思っていましたが。まさか本当にそうだったなんて。
 他にも彼の親がレギュラス・ブラックだったり、本当は名前も違っていたりともう何から思えば良いのか分からないくらいに彼はいろいろと事情がありました。

 私は知らない間に最初から物語に関わっていたのでしょう。

 今は彼が幸せならどうでも良いことですが。

 写真の中の全てを取り払った彼はダンスパーティーの時も見ましたがやはり綺麗な顔立ちをしていて、それが穏やかに幸せそうに微笑んでいます。

 思わずこちらも笑みを作ってしまいますと、私は後ろから甘えるように手を回され優しく抱きしめられました。


 「バックスから手紙が来たのかい」

 「はい。スイスで旅行をしているらしいです」

 「スイスか。ふふっ、スネイプ先生とシリウスって仲が悪いね。チラチラと見ては睨み合ってる」

 「そうですね。話には聞いていましたが。仲が良くないみたいですね」

 「うん。同じ騎士団だから揉めているのを見るのは日常だよ。よく旅行一緒にできたね」

 「それは彼の母が二人にお互いが来ると告げずに呼んだらしいです。ですので最初は二人とも一触即発でしたが、『喧嘩をするほど仲が良いってことよ』と母親が笑って話すと大人しくなり一緒に旅行することができたそうです」

 「それはすごいね」


 セドリックはクスクスと笑い、思い出したように私の耳元にキスを落としました。


 「ミリアはどこか旅行に行きたいところはある?」

 「旅行ですか」

 「うん。僕もミリアと一緒に行きたいなって。ヨーロッパ内じゃなくてもミリアの行きたい場所で構わないよ」


 旅行ですか。確かにまだセドリックとは国内にしか旅行に行ったことはありません。
 でしたら。


 「あの、でしたら日本に行きたいのですが」

 「日本?随分と遠いね。何か行きたい場所でもあるの?」

 「はい」


 ずっと、私は前世の日本に焦がれながらも一度も行ったことはありませんでした。
 行くのが怖かったのです。
 もしも行って私の違うものであったり、逆に同じであったとしてもその事実を知ることを恐れていました。

 けど、セドリックと一緒なら怖くはない気がします。

 私はセドリックへ振り向きました。


 「貴方が一緒に来てくださったら嬉しいです」

 「君のいるところなら僕はどこにだって行くよ」


 そう優しく愛おしそうに髪を撫でながら言ってくださるセドリックへ、私から彼にキスをしました。

 とても温かくも心強いです。

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