ハロウィン7th(2/2)

 私は喉が渇いたのでドリンクを取りに行くことにしました。
 もうハロウィンに参加するという義務は十分果たしたと思いますのでドリンクを貰って帰るつもりです。

 するとその途中でセドリックを見かけました。

 去年彼はヴァンパイアの仮装でしたが、今年は十字架を下げた黒服の神父の格好でした。
 スラリとした着こなしで神父の衣装も彼にとても似合っています。


 「セドリック」


 彼はちょうど1人で歩いていましたので声をかけました。
 するとセドリックはすぐに私の方へ振り向きますと目を見開き驚いた表情になりました。


 「ミリア、来てたのかい」

 「ええ。今年は最後ですので寮の人たちと来ました。相変わらずセドリックは仮装がお似合いですね」

 「え、いや、君ほどではないよ。すごく、可愛い」


 セドリックはどこかぽうっとしたように言いましたので、私は今更ですが自分が仮装していることを思い出しました。
 他の人たちの仮装を見ていて少し忘れていました。
 でなければ自分からセドリックに声をかけることなんてありませんでしたのに。


 「あ、ありがとうございます」


 思わず視線を逸らして私はお礼をいいました。
 セドリックはそんな私の頭の上、おそらくは狼耳を見ていますので改めて意識しますととても恥ずかしいです。


 「耳は動くんだね。ねえ、触ってもいいかい?」

 「別に構いませんが」

 「ありがとう」


 セドリックは私の頭の上にある狼耳を触りました。
 さすがに触覚は通じていませんので触っているということは分かりますが、どのように触っているのかは私には見えません。

 私はセドリックを見上げて彼を見ました。


 「すごいね。まるで本物みたいに動く」

 「そうですね。これを貸して下さった人が言うには耳や尻尾は付けている人の感情をそのまま反映するらしいです」

 「……え?」


 セドリックは再び目を見開きました。

 何をそこまで驚くのでしょうか。
 私からはどのように動いているのか見えないのでとても不安になります。

 私は思わず自分の狼耳へ手を伸ばしますと、触っていたセドリックの手と触れてしまいましたのですぐに手を下ろしました。
 セドリックもそれに私の耳を触るのを止めます。


 「私からは見えませんが、もしかして変な動きをしていますか?」

 「えっと。変なことはないと思うよ」

 「そうですか」


 変なことはないと言いますが、セドリックは歯切れが悪いです。もしかして奇妙な動きでもしているのでしょうか。

 私はこれ以上この姿でいるのは不安ですから、そろそろ戻ることにしました。


 「では私はそろそろ寮に戻ります」

 「あっ、待って。ミリア、trick or treat……してもいいかな?」

 「ええ、どうぞ」


 私はハロウィンの挨拶を言われたので、持っていた飴のお菓子を取り出してセドリックへ渡しました。
 百味ビーンズではなく普通の味の飴玉です。一応パーティーに参加するので念のために用意してきました。

 セドリックはそれを大事そうに受け取りますと、幸せそうに微笑みました。


 「ありがとう、ミリア。今年は君と過ごせて嬉しかったよ」


 私を好意的に思ってくれていることが分かりやすいセドリックに私はむず痒く思いました。
 恋や愛の感情を向けられることは苦手です。

 ですので私は誤魔化すように口を開きました。


 「trick or treat」

 「え?」

 「お菓子、持っていますか?」


 私も今年は仮装をしていますので、そうセドリックに尋ねますと、セドリックはポカンとした表情の後に申し訳なさそうに首を横に振りました。


 「ごめん。僕は持っていないや」

 「ハロウィンなのに不用心ですね」

 「そうだね」


 人気者のセドリックがお菓子を持っていないなんて危険ではないかと思いましたが、まあ私が心配をしても仕方がないですね。


 「でしたらセドリック、動かないでください」

 「え?」


 私は目の前で不安そうにするセドリックへ両手を延ばしました。
 そして、彼の両頬へ手を当て、彼の両頬を引っ張りました。

 セドリックの頬は思ったより柔らかく引っ張り心地がいいです。

 セドリックはそれに驚いて私の名前を言いますが、両頬を引っ張られていますので言葉になりません。

 私はあまり時間をかけずにセドリックの頬から手を離しました。


 「今度はちゃんとお菓子を持ってきてくださいね。それではセドリック、おやすみなさい」

 「……ああ、うん、おやすみ」


 そう言い放心する彼を残し、私は寮へと戻りました。




 結局私は気が付きませんでした。
 セドリックと会ってから、ずっと私の尻尾が横に振られていたことに。

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