贈り物
(ジョージ視点)
「ミリア!」
七年生になってすぐの頃。
俺は人通りのまばらな廊下を前から一人歩いて来るミリアに名前を呼びかけた。
すると、ミリアは一瞬だけ反応して去ろうとしたので、今日用事のあった俺は慌ててミリアの前へと廻り行く手を塞いだ。
そんな俺をミリアは嫌そうな表情で隙を窺っているようだが、俺も今日は負ける訳にはいかない。
ミリアに動かれる前に俺はポケットから、手のひらサイズの水晶玉を取り出しミリアの前へと差し出した。
「ミリアに、夏休みの間にプレゼントを作ったんだ。良かったら貰ってくれると嬉しいんだけど」
「………」
「あっ、いたずらグッズではないよ。水晶玉をこう逆さにすると」
俺は黙っているミリアに急いでこれは安全なものだとアピールするために水晶玉の使い方を説明するために逆さまにした。
逆さにした水晶玉は淡く白く光り、水晶玉の中にヒラヒラと白い粗い粒が現れ、同時に俺たちの周りにも白い花びらがひらりひらりと幻想的に舞い落ちた。
その光景にミリアは少し驚いた様子で舞い落ちる花びらを目で追っていたので、興味を引けたことに俺は嬉しくなる。
「マグルのスノードームってやつを手本に夏休み中作ってみたんだ。スノードームっていうのは水の入った透明の容器に雪のような白い粒を入れて動かすと雪が降っているように見えるマグルの玩具なんだけど」
「スノードームなら知っています」
ミリアは今日俺にはじめて話した。
それは思わずなものだったのだろう。
言ってからミリアは少し気まずそうに目線を横にズラす。
「知っているのか?マグルの玩具なのに」
「マグルのことくらい。多少のことを知っておくのは普通でしょう」
「いや、君はスリザリンだから知らないかと思っていたんだ。けどそれなら話が早い。本当はスノードームって名前なだけあって降るのは雪なんだけど。ミリアに贈るつもりだったから花びらにしてみたんだ。名前はそのまま“フラワードーム”。気に入ってくれた?」
俺が聞くとミリアは難しい顔をして俺を見つめた。
「別に」
ピシャリと言われて俺は少し口の端が引きつった。
まあ、これくらいでくじける訳にはいかない。
今年から、いや、夏休みの前から何故かミリアはディゴリーと仲良くなっていた。
女子の噂では友人関係らしいが、いつもディゴリーを避けていたミリアが態度を変えたのだ。
これは良くない。
簡単に諦めるつもりなんてない。
俺は少し強引にミリアの手を取るとそこにフラワードームを乗せた。
「“別に”なら嫌いって訳ではないんだろ?なら受け取ってくれ。ミリアへ作ったものだから俺が持っていても意味がないし」
「……おかしな呪いが掛けてあったりしませんか」
「もちろんだ。ミリアに対してそんなことは絶対にしない」
そう告げるとミリアはそれでも信用していないようで、自分の杖を取り出すとフラワードームへ杖を向け呪いがかかっていないか確かめた。
当たり前だけど何もおかしなものはないと分かると、ミリアは俺を見上げた。
「貴方は双子のどちらですか」
「ジョージだよ」
「ジョージですね。ありがとうございます」
「えっ。いや、ありがとう。受けとってもらえて嬉しい」
正直、期待半分だったけど。ミリアはフラワードームを受けとってくれた。
それが思っていた以上に嬉しくて俺はきっとフレッドに見られたら呆れられるような締まりのない笑顔でミリアにお礼を言った。
――――――――
まるでフラワードームの花びらは桜のようでした。
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