四階にて

 彼とのはじめてのきちんとした出会いは“賢者の石”の時間軸でのホグワーツの四階の禁じられた廊下でした。

 この時、四階の禁じられた廊下へは行ってはいけないと言われていたのに私が近づいた理由。それは、三階の階段近くを歩いているときにスリザリン寮のゴーストである“血みどろ男爵”に行け言うように階段上を指差されたからです。
 正直、四階に何があるか知っていた私は行きたくありませんでした。
 ですが、じっと私を見つめる“血みどろ男爵”に私は根負けして四階へと向かいました。足がとても重かったです。
 けれど、あの部屋に入らなければ大丈夫なはずですし、部屋には鍵もかかっていたはずです。
 と自分に言い聞かせて四階へと行ったのですが。


 「ぐすっ、ぐすっ」


 私が四階の廊下まで来ますと、小さく誰かの泣き声が聞こえてきました。
 耳をすませますと廊下の角の方からです。

 声だけでは何者かは分からないので、私はそっと近寄ります。
 近寄るとそこには人一人分入れるほどの小さく、自力で登るには困難な深い穴が開いていました。


 「ぐすっ、母上」

 「ドラコ・マルフォイですか」

 「!?」


 私が覗き込みますとプラチナブロンドのよく知っているスリザリン寮の一年生が穴の中にいました。
 泣いていた様子から、魔法の罠であったこの落とし穴へ誤って落ちてしまったのでしょう。

 …それにしても、少し声をかけるタイミングを間違えました。

 母親を呼んだときに声をかけてしまったので、ドラコは泣いていたからだけではなく顔を真っ赤に染めました。


 「おまえは」

 「ミリア・ファストです。貴方と同じスリザリン寮です。…えっと。穴から出られないのですか?」

 「そんな、わけないだろ。僕に構わず、さっさとどこかに行け!」

 「はあ」


 ドラコは怒鳴るように私に言いました。

 …そんなことを言われても。

 こんな場所に生徒は普通でしたら通りませんし、彼は先生方に見つけてもらえるまで穴の中にいるつもりでしょうか。
 現れるのがスネイプ先生ならまだいいでしょうけど、違う可能性も大きいですし。まだ私に助けられておいた方がいいかと思います。

 私は杖を取り出してドラコに浮遊魔法をかけて浮かび上がらせ落とし穴から救い出しました。

 穴から出たドラコはしゃがみ込んだままの姿で驚いて私を見上げますので、私もドラコの前へとしゃがみます。


 「っ!」

 「大丈夫ですか。怪我はありません?」

 「怪我は、ない」


 強気な様子で言いますが。まだ目が赤いですし。
 同学年ならすぐにその場を去りますが、子供なので放ってはおけません。

 原作と関わりの強い彼ですが、スリザリン寮の後輩ですし。これは原作とは関わりのないことですと内心言い訳をします。


 「早く、どこかに行け」

 「ですが」

 「なんだ、僕にお礼でも言わせようというのか?魔法族の上流の名家であるマルフォイ家の僕に?それとも僕の弱みを握ったとでも?」


 ドラコは私が彼のことを知らないのではないかと思ったのでしょうか。彼は自己紹介をして、冷たく言いました。


 「そんなわけありません。貴方はまだ一年生だから分からないかもしれませんが、後輩が困っていたら心配をしてしまうというのが先輩というものです」

 「嘘だろ。何を考えているんだ」

 「嘘ではありません」


 私が言うのも何ですが。なんでしょうこの警戒心の強さ。
 ドラコは毛を逆立てるようにして私を睨み付けます。

 普段は余裕そうに笑っていることが多い彼ですが。穴に落ちたことが余程怖かったのでしょうか。


 「なら、おまえの心配なんていらないからどこかに行け」

 「……分かりました」


 あまり刺激するのも何ですし、私は立ち上がりました。
 それにドラコは自分で言っておきながら一瞬心細そうな顔をします。

 私は彼へ背を向けて階段へと足を下ろします。


 「おいっ、このことは誰にも言うなよ」

 「もちろんです」


 私は振り返らずにドラコへ答えました。
 そうして、私はドラコの元から去りました。






 ………ところで。

 この階段は三階から四階に繋がる道がU字になっています。
 ですので、私はそのUの底の部分。しゃがむと三階からも四階からも見えない部分で腰を下ろしました。

 さすがに一年生を放っておけるほど私は冷たくはできていません。
 これがグリフィンドール生なら普通に帰りますが。

 彼はスリザリンですし。

 しばらくすると、またドラコの声を押し殺した泣き声が聞こえてきました。




 それから寮の門限までもうすぐという時間。
 ドラコがやっと下に降りてくる音が聞こえました。

 私は読んでいた本を閉じてこっそりと逃げようかと思いましたが、中腰だとスピードは出ませんし立ち上がると見つかってしまうような向こう側が見える階段なのでやめておきました。


 「っ!?なんでお前がここにいるんだ。どこかに、行ったんじゃなかったのか」

 「ええ。疲れたので本を読みながら休んでいました」


 ドラコの目は赤いものの、どうにか泣いていたと確信するには足らない程度に赤みは引いていました。

 私はもしかしたらドラコは穴に落ちた際に足をくじいて立てないのかとも思っていましたが、きちんと立てているので杞憂だったようです。


 「それでは疲れもとれましたので、私は寮へ戻ります。ドラコ、貴方ももう寮へ帰る時間ですから帰りましょう」

 「っ。あなたに、言われるまでもない!」


 ドラコは怒った様子で先にズンズンと歩いて行きましたので。私は彼の後をついていきました。
 後ろから見える彼の耳が赤く見えたのは気のせいということにしておきます。

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