今思えばあれは一目惚れというよりは動物の勘に近かったように思う。
初めてガイと目が合った時に感じた衝撃は自身の人生観を覆す程のものだった。
物欲のさほどない自分がどうしても欲しい、と切願したのは後にも先にもこれきりだったとジェイドは思い返す。
夜中の病院で小さな双子を抱え、ぐずる2人に大丈夫だよと優しく声をかけ、あやす美しい女性。
触り心地の良さそうな蜂蜜色の髪がふわりと揺れ、エメラルドの切れ長の瞳が自分を捉える。
その瞬間、ジェイドは恋に落ちていた。


あれから半年程たち、今は自分の脚の間にすっぽりと納まり雑誌に視線を落とすガイのうなじを見つめる。
ほっそりと長いその首筋は驚くほどなめらかで柔らかい事を自分は知っている。
思わず唇を寄せ吸い付けばこら、と頭を小突かれた。

「ジェイドも真面目に選んでくれよ。式まで時間ないんだから」
「すいません、美味しそうだったもので、つい」
「だんだん言う事がおっさん臭くなってきたな、あんた…」
「まぁ実際におっさんですから。あ、これなんてどうですか?」
2人で色とりどりのドレスが載っている雑誌に目を移す。
襟ぐりの大きく開いた真っ白なドレスは体のラインを綺麗に誇張している。線の細い彼女にとても良く似合いそうなデザインだ。

「これ…流石に胸のところが開きすぎじゃないか?恥ずかしいよ」
「ところでガイ。貴方はいま幸せですか?」
「幸せじゃなさそうに見えるのか?」
そう言われ自分の肩に凭れたままこちらを振り返るガイの顔を眺めた。
ピンク色に染まった頬は柔らかな笑みを湛え、活き活きとした肌は若く美しかった。
如何にも幸せそうに笑う彼女を見ているとこちらまで幸せな気持ちになってくる。


「すごく幸せだよ。あんたと結婚して、家族になれて。家族なんてもう持てないと思ってたから」
「奇遇ですね。私も結婚は一生出来ないと思っていました」
それ別の理由でだろ、と呆れるガイを後ろからきつく抱き締める。
そうしていれば自分に欠落している様々な感情を補えるような気がした。


(成程、ガイラルディアはジェイドの生贄になる訳だな)
自分の幼馴染であるピオニーに言われた言葉はこの関係にしっくりと当て嵌まるように感じた。
若く美しいガイは実の妹を以ってしても悪魔のようだという己の贄に相応しい。
自分の為に差し出された哀れな供物のような彼女が祭壇に捧げられる日まであと少し。


―――――


結婚式=ガイ生贄の儀式。
みたいな周りの認識(ジェイド含め)にも関わらずガイ本人は本当にジェイドの事が大好きで幸せだと思っている、というJG♀夫婦の馴れ初め。


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