ガイの通う大学は新居から少しだけ遠い。けれどもそれを彼女は気に入っていた。
大学の最寄り駅の傍にはかつて自分が住んでいたファブレ邸がある。
4年生になった今は殆ど授業もなく学校に行く回数は減ってしまったけれど、講義がある日の帰りは決まってそこに寄るのが習慣になっていた。

産まれた時から世話をしていた双子達はもう小学校に通っている。
おむつを替えたりミルクを飲ませたりしていた頃とは違い、もう彼らが自分の世話を必要としない事に少し寂しさも覚えるが、成長した二人を見るのをガイは何よりも楽しみにしていた。


(あぁ、赤ちゃん欲しいなぁ)
帰らないでと泣き叫ぶ双子達を思い出しながらガイはうっとりと溜息を吐いた。
ルークとアッシュは本当に可愛い。自分の子供のように愛おしいけれど、2人はファブレ家の子供だ。
そう思うと堪らなく自分の子供が欲しくなった。自分とジェイドの赤ちゃんだなんて考えただけでうっとりしてしまう。


「なぁジェイド。そろそろ子供、欲しくないか?」
そわそわと落ち着きの無い妻の様子が気にはなってはいたけれど、理由はこれだったのか、とジェイドは心の中でだけ呟いた。
「大学を卒業してからでいいんじゃないですか?幾ら日数が少ないとはいえ卒業まであと1年近くありますよ」
「でも後半は殆ど講義ないんだよ。だから妊娠しても支障ないと思うんだ」
「だったら尚更卒業後でいいじゃないですか。卒業式で袴着たいって、あなた言ってたでしょう」

そうだけど…と拗ねた顔をするガイを見ながらジェイドは少し驚いていた。
普段ガイはこんな駄々を捏ねるような事を言わない。きちんとした理由があってそうしたい、というのならまだ話は分かるのだが、今回の話はその明確な理由が見当たらなかった。

「今までそんな事言わなかったじゃないですか。急に子供が欲しくなる理由でもあるんですか?」
「今日さ、双子達に会って来たんだけど…もうすっかりお兄ちゃんになってて、それがちょっと寂しくて。俺がいないと何にも出来なかったのにさ」
「ふむ。私はガイがいないと何も出来ませんよ。貴方が必要です。それでは駄目なんですか?」

別に子供でなくてもいいんでしょう?と笑顔で問われて思わずハイと答えてしまった自分が憎らしい。
誰かに必要として欲しいと思っていたのは確かだが、それはこんな形でではなかったはずなのに。

まあでもそこまで言うなら仕方ない、今はこのおっさんの世話を焼くので我慢してやるか。
自分の首筋に顔を埋めるジェイドに苦笑しながら、それでも満更ではなさそうにガイは身を委ねた。




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