あれから逃げるようにしてアパートに帰ってきた2人の様子はかなり対照的だった。
ユーリはそれはもうぐったりとしている。靴を脱いで部屋に上がるなり万年床になっている薄い布団に突っ伏した。
対するフレンは足取りも軽く鼻歌まじりでお土産に貰った料理を冷蔵庫にしまっている。
「ガイさんって綺麗で料理も上手で本当に素敵な人だね。旦那さんも大人でとっても紳士だし」

あの旦那のどこが紳士なんだ!と全力で突っ込みたいところだったが、生憎そんな気力も体力も残ってはいなかった。
とにかく疲れていた。もう今日は寝てしまおう。そう決め込んでもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。

「ユーリ、寝るならお風呂に入って。それから歯を磨いてからにしなよ、ほらほら」
容赦なく掛け布団を剥がされ、腕を引っ張られ無理矢理起こされる。
まったくコイツは何を考えてるんだ。俺と結婚したいって、これじゃまるで母親みてーじゃねぇか。
何かと小言を言いたがるフレンを尻目にユーリは小さく溜息を吐いた。

ずっとフレンの事が好きだった。一緒にいるだけでただ幸せだった時期を過ぎ、それだけでは満たされないと気付いた思春期を迎え、ようやく伝えた気持ちにフレンは嬉しそうに頷いてくれた。
手を繋いだだけで全身が震え、キスをするだけで頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
結局のところ自分もまだ怖いのだ。自分の手でフレンを傷付け、穢してしまうのが堪らなく怖い。
今はまだこのままでいい。好きだと言い合って、照れながらキスをするくらいの幸せが丁度いい。

「お前さぁ、俺と結婚したいって、あれ本気?」
「勿論本気だよ。だって君の事が好きだし、ずっと一緒にいたいと思ってる。君はどうなんだ?その、僕と…」
そこから先を言い淀んでしまったフレンをユーリはすまなそうに見つめた。
あの時に俺もお前と結婚したいって言ってやれば良かったな、と今更ながらに思う。

「そっか、すげー嬉しい。俺だってフレンの事が好きだ、いずれそうなったらいいと思ってる」
「でも、君は僕を抱かないじゃないか。そりゃあ自分でも可愛げのない女だって自覚はしている。君の好きな細い体も持ち合わせてないし顔だって…」
「待て、分かった、お前の気持ちは分かったから少し落ち着け」
今まで心に溜めてあったものを全て吐き出すかのような勢いの言葉を慌てて遮る。
そこまでフレンが思いつめてたなんて思ってもみなかった。ユーリはごめんな、と呟き柔らかな金色の髪を撫でた。

「1回しか言わないからよーく聞けよ。いいか、俺はお前の全部が好きなんだよ。そのきっちりした性格は俺の駄目な所をちゃんと分かって叱ってくれてるし、それが愛されてるって感じで安心する。体はすげー柔らかくて抱き心地いいし、顔だって可愛くて童顔で俺好みで…」
わかったからもう止めてくれ、と今度はフレンの方が止めに入る。恥ずかしくて死にそうだと真っ赤な顔で言われた。

お互いに黙ったまま顔を見合わて、それからごめん、と同じタイミングで謝る。不安にさせて悪かった、そう言いながらユーリはバツの悪そうな顔でフレンを抱き寄せ紅潮している頬に唇付けた。

「まだちょっと怖いんだよ、お前の事、その、抱くの。好きだから抱きたいけど、怖い。矛盾してるけどそれが本音。もう少しだけフレンの事抱きしめたりキスするだけで幸せになれる俺でいさせて」
慎重に言葉を紡ぐユーリにフレンは少し躊躇った後に分かった、と頷いた。

「ユーリの気持ちも分かるけどね。でも出来るだけ早く腹を括ってくれると僕も助かるんだけどな」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「何でもないよ。それよりほら、キスしようよ。今日はまだ一回もしていないだろ」

半ば強引に押し当てられたフレンの唇で全てがうやむやになったけれど、目の前のこいつが幸せそうに笑うから今はまぁこのままでいいか。


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完璧に男女逆転な考えのユリフレ♀


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