ある日ユーリのアパートに行くと知らない男女が部屋の扉を叩いていた。 「すいませーん!誰かいませんかー!!」 「おい、スレイ!いい加減近所迷惑だからやめろって!」 「だって窓開けっ放しとか危ないだろ?」 「部屋にいるけど出てこないだけかもしれないじゃないか」 「あ、あの、ユーリに何か御用ですか?」 振り返った2人の顔にはやっぱり見覚えが無かった。 人懐っこそうな男性の方が良かったあと顔を輝かせて駆け寄ってくる。 「ユーリなら今の時間バイトでいないと思うんだけど……あっ!また窓開けっ放しで出かけて……」 「ほら、やっぱり留守だったじゃないか!」 「何でスレイが勝ち誇った顔をするんだ!」 「心配して下さって有難う御座います。でもいつもこうなんで気にしないで下さい」 「俺スレイって言います。こっちはミクリオ。今日隣に引っ越してきたばっかりで。それで挨拶に来たんですけど……」 「こんにちは。僕はフレンです。この部屋に住んでるのはユーリっていう高校生で、僕はユーリの、えっと、その、」 「あ!彼女さんですか?」 「は、はい一応……。そちらの方は彼女さんですか?」 「はい!あ、でも高校卒業したら結婚するんであと1年たったら俺のお嫁さんです!」 「ばっ、馬鹿!そういう事は言わなくていいんだ!!」 真っ赤な顔をした彼女、ミクリオさんは慌ててスレイと名乗った男の口を塞いでいる。 1年たったら卒業……という事は僕達と同じ年か。 「もしかして今年から3年生?僕とユーリもそうなんだ」 「そうです!わーー、すごい偶然だなあ!どこの高校?俺達はゼスティリア学園っていって、ここからちょっと遠いんだけど……」 「そんな訳でお隣に引っ越してきたスレイとミクリオだ」 「どーも。というかたかだか半日くらいで何でそんな仲良くなってんの、お前……」 「これを見てくれ、ユーリ。ミクリオが作ってくれたお菓子の数々だ。すごいだろう!?」 「お、おお、確かにスゲーな……って、いやいや、そんな事よりもだな、」 「どれもすごく美味しかったけど特にこのマカロンというのがオススメだ。ふわふわなのにサクサクなんだよ!」 「俺はやっぱりバニラソフトクリームが好きだなあ。ミクリオが初めて俺の為に作ってくれたおやつだし」 もうツッこむのも疲れたので大人しくピンク色のマカロンを口に放り込む。 期待に満ちたドヤ顔でこっちを見てるフレンの顔を横目で見ながらもう1個手に取る。 「何だこりゃ。スゲーうまいな」 「そうだろう!?今度作り方を教えて貰うんだ。そうしたら僕にも作れるから楽しみに待っていてくれ」 「その時は是非俺も一緒の時にしてくれ。いいかミクリオさんとやら、絶対にだぞ」 「えっ!?あ、ああ。分かった」 「俺はお菓子作りあんまり得意じゃないけど、でもミクリオの手伝いしたいから俺も一緒の時にしてよ」 「ど、どうして君はそういう恥ずかしい事を人前で……!」 「じゃあその時はガイさんも誘おうよ。ジェイドさんも甘いもの好きだって言ってたし」 「あーー、そうだな。ここじゃ狭いからガイん家のキッチン使わせて貰うか。つーかマジでどれもうめえな」 マカロンは勿論、他のお菓子もどれも絶品とか何なんだこのスレイってやつ死ぬほど幸せものだな。 いや俺の方が絶対幸せだけど。俺のフレンが世界で一番可愛いけど。 「それにしても何だってこんな時期に引っ越してきたんだ?」 「もともとイズチから学校が遠いってのもあったんだけど、俺、来年からこの近くの大学に進学する事になって。その時期に実家が家建てなおすって話になったから俺達は1年早いけどこっちに来たんだ」 「じゃあミクリオも同じ大学に進学するのか?」 「いや、僕は進学はしない。早く子供が欲しいから」 「俺達、本当の親はいないんだ。だから早く結婚して自分達の家族をいっぱい作るのが夢なんだ」 「ジイジにも早く孫を見せてあげたいしね」 「そっか。でもこんだけおやつ作りの上手いヤツなんてそうはいねえからもったいねえような気もするけどな。いっそ店でも開けばいいのに」 「料理はスレイの方が得意だけどね。悔しい事に」 「そんな事ないよ。ミクリオの料理だってすごく美味しいよ」 またこのパターンとか呪われてるとしか思えない。何で俺のまわりにはこう無自覚でノロけだす奴ばっかり(フレン含め)いるんだ。 まあ何にせよ良いヤツらで良かった。俺がいない時にフレンを気に掛けてくれる人物がいるのはこちらとしても有難い。 フレンが強いのはそりゃもう十分すぎる程知っているが何せこのボロいアパートだ。備えあれば何とやら、って言うだろ。 そんな事をぼんやり思いながら楽しそうにノロけている3人を眺めつつ最後のマカロンを口に放った。 「楽しいヤツらで良かったな」 「うん。学校の外でも友達が増えるというのはいいものだね」 「その割に浮かない顔してるじゃねーか、フレンさん?」 「えっと、その、君に申し訳ないなと思って……」 「はあ?何が?」 「僕はあまり君の役に立ててない。きっと僕にはあんなに美味しいお菓子は作れない」 「美味いお菓子が作れれば俺の役に立てると思ってるお前が物凄く可愛いと思う反面、そんな男だと思われてるなんてショックなんだけど」 「そ、そういうつもりじゃ……!!」 「美味いお菓子が作れても作れなくても俺はお前が好きだし、いっぱい抱っこしてチューしたいって思うのもフレンだけだ。オーケー?」 「……ばか」 でも嬉しい、と笑顔を見せるフレンは間違いなく俺にとって一番可愛くて綺麗で、そんでもって何より大切なものだ。 俺はお前を愛してるぜ、フレン。例えお前の作る料理やお菓子が対人間兵器だとしてもな! |