赤ん坊が家にやって来てまたたく間に日常は変わった。
まず始めに数時間ごとに泣く息子に合わせて生活するガイと泣く泣く寝室を別にした。
赤ん坊とはそんなに泣くものなのですかとガイに尋ねたら、まあだいたい泣いてるか寝てるかのどっちかだなという返事が返ってきてそんな馬鹿なと思っていた頃が懐かしい。
彼女の言った通り昼夜関係なく起きる赤ん坊に最初は酷く驚いたものだが今ではすっかり慣れた。
この子に限らず赤ん坊とは皆そういうものらしい。

「ルークなんて寝かしつけるまでがそりゃもう大変だったんだぜ。アッシュも神経質だからちょっとの物音ですぐ起きちまうし」

それに比べてコイツはもの凄くいい子ちゃんだよ、あんたの子なのになー?なんて笑うガイを心底尊敬したものだ。
良く女は母親になると強くなるというが、彼女も例に漏れずそうだった。



リビングに入ると床に寝転がっている2人を見つけた。
どうやら授乳の最中に寝てしまったらしく、無防備にも魅力的な乳房が丸見えだった。
その横で小さな足をバタつかせている小さな生き物を抱き上げる。

完璧に美しい子だ、とガイは言う。
目の前の息子を見つめてみるが美しいとは思わなかった。
ただただ不思議な生き物だった。人間というよりは動物に近い。
髪の色は自分のよりもほんの少し淡い亜麻色だった。
白い肌は滑らかで柔らかく、掌も足も人形のように小さかったが間違いなく生きている。
腕の中ではエメラルドの瞳がじっとこちらを見ていた。ガイのそれと同じ、美しい緑。

「可愛いだろ、あんたの息子」
「ええ。あなたが産んでくれた子ですので」
「今のうちにいっぱい抱っこしとけよ?すーぐ大きくなっちまうんだから」

くるくると良く動く瞳がガイの姿を捉えるとにこりと笑った。
産まれてまだ一ヶ月だというのにもう母親の顔が分かるのだと言う。
最初は半信半疑だったが現に息子はガイを見て笑っている。
それからもう一度こちらをじっと見て、小さな手をこちらに伸ばす。

「おおー、パパの事も分かるようになったなあ!」
「今のがですか?」
「そ。顔見ても泣かなくなったのがその証拠」
「そう、ですか」
「……ははっ!見てみろよ、ジェイド」

そう言われて視線を向けた先には小さな掌。

「コイツの爪の形、あんたのとおんなじ」

自分の手の上に乗った小さな手の先には同じく小さな爪。そしてそれは確かに自分のものと全く同じ形をしていた。恐ろしい程に。

「性格はあなたに似て貰わないと困ります」
「どうだろうなあ?頭の良さは確実にジェイド似だと思うけど」
「自分と同じ頭の中身の人間なんて考えただけでゾッとしますね」
「大丈夫。きっと優しい子に育つさ。あんたに似て」

腕の中であくびを繰り返す息子にキスしながらガイが幸せそうに微笑む。
その愛らしい顔に無言で顔を近づけると予想していたよりも深い口付けをされ、うっとりと目を閉じる。
合わせた唇から愛してる、と溢れる声は甘く密やかだった。






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