「あの、ガイさんにお願いがあるんです。その、あの…」
「ん?どうしたフレン。お茶のお替り淹れようか?」
「いえ、それなら僕がやりますから!あ、えっと、そうじゃなくて、あの、あの…お腹。触ってみてもいいですか?」

一瞬きょとんとした顔をしたガイさんはすぐに何だ、そんな事かと笑い出す。
「好きなだけどうぞ。もうあんまり動かないんだけど、それでも良かったら」
「あっ、有難う御座います!じゃあ、じゃあ、触りますね…!」
すす、とガイさんの隣に移動して大きなお腹に恐る恐る触れてみる。
見るからに重そうなその丸みは想像以上に固く、如何にも中身が詰まっているといった風だ。

「ここに赤ちゃんがいるんですね。不思議だなあ…」
「あはは、ルークとアッシュも同じこと言ってた。中の音も聞いてみる?」
「はい…聞いてみたいです」
「心音くらいは聞こえると思うよ。んー…この辺かな。耳当ててみて」
「はい…」
大きなお腹、その一番膨らんでいる部分にぴたりと耳を当てると、そこからは微かに小さな音がした。
規則正しく響く、心臓の音。
暫くそうしていると、頬のあたりで何かがもぞっと動く。

「わ、わわっ…!動いた…」
「珍しいなー、最近はめっきりだったのに。ほら、ここが踵で…」
「怖く、ないですか?」

もぞもぞと動いている場所を擦りながらガイさんが不思議そうに僕を見る。
「あ!変な事聞いてすいません…でも、すごく重そうだし、痛そうだし…。赤ちゃん産むの、怖くないのかなって」
「怖くないよ。全然」

ガイさんはにっこり笑って、それからちょっとだけ眉尻を下げてあー、と唸った。
「全然っていうのは嘘だな。本当は少しだけ怖い。だってこんな大きいのが出てくるんだぜ?想像しただけで吐きそう」
「そうですよね…。結構な大きさですもんね、赤ちゃんって…」
「でも、そんな事を考えてる時間も愛おしい。この子が産まれた後の時間を考えるのはもっと愛おしい。だからそんなに怖くない、っていうのが正解かな」
「……ガイさんってすごく大人ですよね。僕と4歳しか違わないのに」
「そう思われてるなら光栄だけど、でも俺、そんなに大人でもないんだよなー」

そう言うと彼女はきれいな青色の瞳を細めた。
まるで悪戯を思いついた子供のように。

「もしそう見えてるなら全部ジェイドのお陰。俺が俺らしくいられるようにしてくれたのはジェイドだけだったから。自分でも気付いてなかった、本当に欲しかったもの。それを与えてくれたのがジェイドなんだ」
「それって赤ちゃんの事…ですか?」
「うーん、それもあるんだけど…もっと複雑で曖昧なもの、かな」

僕を見つめていた視線が彼女自身の丸いお腹に移り、細い指先がその膨らみを確かめるように撫でていく。
ああ、綺麗だな、と素直に思う。
もともと美しい人ではあったけれど、今は全てが満たされいるような、そんな優しい雰囲気を纏っている。

「もう1回お腹、触ってもいいですか?」

僕の言葉を聞いて、ガイさんは綺麗な笑顔のまま頷いてくれた。





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