ユーリのアパートで彼の帰りを待っている時、すごく幸せだなあ、と思う。
今日の夜ご飯はユーリの好きなものにしようとか、明日はユーリと一緒に何をしようとか、彼の事だけを考えて過ごせる時間はとてもあたたかな気持ちになる。
今は週末しか一緒にいられないけど、高校を卒業したらここに引っ越してこようと勝手に決めていた。
でもこれはまだ内緒だ。
ダメだと言われても強引に押し通すために、卒業間際になってからでないと。

これからもこんな風にユーリと一緒にいられたらいいな。
いつからかぼんやりと思い続けていた気持ちは日増しに強くなるばかり。
何の確証も約束もないけれど、そう思っていればいつかは本当になる気がした。
ただの気休めかもしれないがこの呪文のお陰でユーリとの仲は概ね順調だ。



「そういえばガイがお目出度だとよ。来年の2月くらいに産まれるらしいぜ」
「わあ、そうなんだ!2人の赤ちゃんならきっとすごく可愛いね」
「まあそうだな。あの旦那も顔だけはいいからな」
「またそんな事言って…。でも楽しみだね。何だか自分の事みたいに嬉しいな」
「フレン、」
「ねえユーリ。きっと君の事を幸せにしてみせるから、いつか僕と結婚して欲しいんだ」

顔面蒼白のユーリの手から箸がぽろりと落ちてテーブルの下に転がる。
「ど、どうしたんだユーリ、顔がすごい事に…」
「……お前ってヤツは何回俺の心をへし折れば気がすむんだよ!どう考えたって強すぎるだろ!ラスボスか!」
僕の肩を掴み全力で揺さぶってくるユーリは今にも死にそうな顔をしている。
どうしよう、言ってる意味が分からない。
ひとしきり暴れ終えたユーリははあ、と盛大な溜め息をついて僕の鼻をぎゅっと摘んだ。
「俺が、お前を幸せにするんだよ。分かったか?」
「ひ、ひたひ…!もう、痛いよユーリ!酷いじゃないか!」
「酷いのはお前だっつの。ほら、これやるから機嫌直せよ」

そう言って目の前に差し出されたのは銀色の輪。
「どうしたの、それ」
「んー?買ったんだけど?さてフレンさん、右手出して」
「ユーリ…」
「左手はもうちょっと待っててな。いつか給料3ヶ月分の買ってやるから、それまではこれで我慢して」

ユーリがどんな生活をしているのか、自分は良く知っている。
誰の施しも受けずに1人で暮らしている彼がこんなものを買う余裕などある訳ないのだ。
それでも彼はこれを、自分の為に。
「…いつも、ユーリに会うたびにもうこれ以上は好きになれないくらい好きだと思うのに、でもどんどん好きになるんだ。
どうしよう。君のこと、もっと離したくなくなるよ」
「いいじゃねーか、離さなけりゃ。俺はお前のこと離してやらないからな」
ぎゅっと強く抱きしめられてますます胸が苦しくなってくる。
愛している。こんなにも君だけが好きで、特別で。
ユーリがいたから孤独ではなかった。
寂しい時にはいつだって隣で手を握っていてくれたから。

「ありがとうユーリ。すごく嬉しい。指輪、大事にするね」
「おう。虫ヨケにもなって丁度いいだろ」
「むしよけ?それはどういう意味だ?」
「深い意味はねーよ。いつでも付けててくれよってこった」
「うん、分かった。あ、でも学校では付けられないかな…」
「じゃあチェーン買ってそれに通しとけよ。んで学校行く時は首から下げといて」
「そうだね。じゃあ明日買いに行ってもいい?」
「了解。あとさー、フレンにいっこお願いがあるんだけど」

なに?と答えながら顔を上げると、そこには何時に無く真剣な面持ちのユーリがいて。
普段あまり見ないその表情に心臓がどきりと跳ねるのが分かった。

「あのさ、卒業したら一緒に暮らそうぜ。俺にはフレンが必要だし、お前にもそうであって欲しい」
ガチガチに固まったユーリの手はすごい力で僕の手を握り締めているからちょっと痛い。
でもその強さが彼の本気を物語っているようで嬉しかった。

「ユーリ」
「な、何でしょう…」
「好き。大好き。君と一緒にいられて、僕はすごく幸せだ」
「ん、俺も。一緒に幸せになろうな」

目の前には愛しいユーリ。
耳元で囁かれるのは甘い言葉。
これ以上の幸せなんて、ちょっと見つかりそうにない。





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