善意の裏返し

■荒川弘版、コミックス三巻までしか読んでない俄かが書きました!
■時間軸は察してください……
ほんのり?腐向け、苦手な人は注意
■タイトルはついった診断



「殿下!」

朝の霧に濡れた岩肌に、足元を掬われ滑った殿下に駆け寄る。怪我でもしていたら、何かと小煩い黒衣の従者が、(俺を)タダじゃ済まさぬことだろう。

「っすまぬ、ギーヴ。大丈夫だ、怪我はしていない」

少し驚いたがな、とこちらの気を知らずか、朗らかに笑う殿下に手を差し伸べる。無事なら良いのです、と触れた手を引き立ち上がらせながら、微笑みを返した。

「おや、殿下。その御髪に付けているものは一体……?」
「む……?」

転んだ拍子に舞い上がった花弁が、髪に引っかかったのだろうか。水汲みをしに川へと続く道は岩ばかりで、地に咲く可憐な花はどうにも見当たらない。
しかし、傍にひっそりと立つ樹にひとつ、なるほどと点頭して頭上を見上げた。
朝霧に塗れていて、遠くからでは気づかなかったが、そうかと呟く。
岩に押し付けられつつも、凛と伸びる花木に知らず感服しながら、その花弁の正体を知った。

「ああ、花が付いておったか?」

同じように樹に目をやった殿下が、違和感の正体を知る。探るように己の髪に触れていた手で、付いていた花弁を手に取った。

「不思議な形をしておるな」
「確か、それは藤の花ですよ」

楽士……としての知識を、ありのまま伝える。

「通常は、あの様に連なって咲いているのです。それが幾つか落ちていた様ですな。不思議な形、というのも、感想として無理はありません」

一蔓、何気なしに手折り。採っても良いものなのか、と殿下に問われ、あまりにも美しかったもので思わず、と返せば、お前らしいなと少し呆れたように笑われた。
話題を変えるため、ひとつ咳払い。

「これ以上、水汲みに時間をかけて仕舞えば、……特にダリューン殿に心配をかけてしまいますな。殿下、私が時間をかけてしまった上で申し訳ないのですが、少し急ぎましょうか」
「うむ、そうだな」

足元お気をつけて、と殿下の先に歩き出て、比較的歩きやすい足場を選び、進んでいく。
その足場を同じ様に下りながら、暫く経ってふと殿下が口を開いた。

「ギーヴ、お主が謳う者として知っているかもしれぬから聞くのだが……」
「なんでしょう?」

思わず手折ってしまった藤の花をどう致そうかと考えながら、問いの内容を促す。

「藤の花の、花言葉とはなんだろう?」

純粋な、素朴な疑問なのだろう。
唯の男が、特に兵士などが聞いてきたのならば、女々しいななどとバッサリ切り捨てるところだ。
だが、余りにも世間を知らなすぎるこの王子には、その様な突き放す態度は起こせそうにない。

「何故、花言葉を? よろしければ理由を教えてくださりませんか」
「聞こえが少し悪いかもしれぬが、城の庭園には、数々の花が咲いておってな。女中達が話す、花の一つ一つに込められた想いが、沢山あって面白かったというか……」
「フフ、一種の知識欲ですな」

女性の世話役に付き添われ、花の意味を知って行くこの王太子の姿。
想像に容易く、つい笑ってしまう。
女性というのはいつの世も、物に色んな意味を込めるものだ。

「私のそれが合っているものかは分かりませぬが、藤の花言葉は確か――」

言いかけて、止める。

「? ギーヴ?」
「――ああ、申し訳ありません。その花言葉を、私としたことが忘れしてしまいまして……」

心底申し訳ない、と表情で表せば、元より優しき性格の少年は、慌てて首を横に振った。
いきなり問うたのはこの自分で、忘れてしまったのは、己の思いとは関係ない時のせいなのだ、と。
まったくこの王子は、部下に対して甘い。その甘さを存分に利用している自分が何だが、いつか本物の性悪に惑わされやしないか、と心配になる。
まあ、そんなことする前に、あの万騎長に屠られて終わり、か。

「アルスラーン殿下、お気になさらずとも。さあ、漸く川に着いたようですな。私が水を汲んでおくので、殿下は少しお待ちください」
「そうか……。うん、ありがとう」
「ああ、殿下がよろしければ、この花を受け取ってはくださりませんか? 悪戯に折ってしまいましたが、己の考えなしの結果でどうすることもできず」
「全く構わぬ! 有難く受け取ろう」
「ありがとうございます、アルスラーン殿下」

では、と差し出した藤を代わりに水桶を受け取って、水辺に向き直った。
量を調節し溢れぬよう工夫したら、あとはもう仮拠点に戻るだけだ。
敵がいないとも限らぬような場所に、長居する必要はない。

「お待たせしました。急ぎ戻りましょうか……殿下?」

矯めつ眇めつ藤の花を眺めている。
つい声を掛ければ、物思いに耽ってしまった、と心なしか申し訳なさそうに苦笑した殿下に、経験からなんとなく、何を考えていたのかがわかった。

「……それのことですが」
「ん? それ、とは」
「言葉は忘れてしまいましたが、この花が何故この様にたおやかで、優しい紫をしているのか、私の様な者でも、意味は理解できまする」
「………?」
「銀糸の髪をした者に、よく似合うように生まれてきたのですよ、この花は」

とても美しい、お似合いです。

想いに偽りなく、顔色ひとつ変えずに囁けば、白い肌が面白いくらいに真っ赤に染まった。

「……あまり揶揄ってくれるな、ギーヴ」
「何を仰りますか。真意をお伝えしたまでです。それよりもほら、早く戻りませんと」
「……む、うむ」

はぐらかされたのを察しつつ、殿下にとって苦手な分野だろう会話に、終止符を打つ。
どっちにしろ、そろそろ本当に戻らないと、自分たちを探しに誰かが呼びに来かねないだろうから。

「――……殿下には、ひとつ謝らなければならない事が出来ましたな」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何も」

来た道を、王子を先頭に戻りながら、背後に隠れて意味ありげに口許に笑みを浮かべた。

私が謝らなければならぬこと。
本当は藤の花の言葉を知っているのですよ、殿下。
だからこそ、貴方に持っていて欲しいし、私から受け取って貰わねばならぬのです。
花言葉は確か、そう。
――優しさ、歓迎、――

決して、離れない。




BGM : 花.に.嵐.

善意(他)の逆意=一方通行 他 《タロットカードから》


以下、無駄に長いあとがき!!


藤の花の花言葉には、他にも恋に酔う、っていう意味もあるらしいです
一応、恋と表現するところまで、彼等がいってるつもりは無かったので。いつか来るかもしれない「従者として」決して離れない、って言う妄想でしたー。自己満!

目上の人なので、丁寧な言葉を「使わなきゃならない」人は、書いた中では殿下が初めてです
書いてるやつが下手くそなんで、こんな敬語?あんの?みたいな感じですせっかく日本人に生まれたのに日本人やめた方がいい

原作読みたいです
私は荒川弘先生のコミックス三巻までしか読んでません……
個人的にギーヴが本当 ツボなんで四巻の予告見て胸の滾りがやばい
殿下は男の娘と表現するには、余りにも尊いので、彼は男の子だと私は思ってます!!
殿下、マジ、天使。
従者間共通項目です、OK?

(2015.05.06)
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