片想いと

■モブ日♀←及。モブがかなり下衆な感じだけど出ません。息抜き製作なので誤字脱字 注意。
バレー一切関係ないです…
■及川さんが優しくて気持ちが悪い()。日向がネガティブすぎてだれおま。つまり二人ともキャラ崩壊



■モブ日♀←及。モブがかなり下衆な感じだけど出ません。息抜き製作なので誤字脱字 注意。
バレー一切関係ないです…
■及川さんが優しくて気持ちが悪い()。日向がネガティブすぎてだれおま。つまり二人ともキャラ崩壊

*・*・*

好きだ、とあの子が言うので、最高で理想的なモノを提供した。
あの子に似合う可愛い服を仕立ててあげたし、ふわふわの髪の毛をもっと愛らしく仕上げてみたり。あの子が、生まれて初めてのデートだと言うので、まだ恋人と呼ぶには日の浅すぎる彼女たちが、楽しめるようなデートプランを二人で考えた。
デート前日に、緊張する、とLINEが来たので、大丈夫だよ。しょーよーちゃんはめちゃくちゃ可愛いよ。なんてったってこの及川さんの可愛い後輩だもん☆と本心を文字にして送ったら、照れたような怒ったようなスタンプが何発も送られてきた。
デートの最後に、付き合ってくださいと告白したらしい。彼からの返事はよろしくお願いします、だったそうだった。翔陽ちゃんは興奮のまま、嬉しそうに電話で話してくれたので、俺も出来る限り安堵したようによかったね、と答えた。

翔陽ちゃんは俺のことを、頼れる先輩または兄のような存在だと言う。そうかもしれない。俺もあの子と初めて会った頃、他校の可愛い後輩、あるいは妹のような存在だと、可愛がってきたのだから。
「おれ、及川さんが初恋だったのかもしんない」
「えっ。ナニソレ本当? 初耳なんだけど」
「うーん。でも及川さん、おれと初めて会う以前から今まで、何人も女の人と付き合うもんだから、おれ無意識に諦めちゃったのかも。及川さんの彼女みんな可愛かったし」
その時の衝撃と言ったら。
高校時のバレー部エースに、後頭部サーブを打ち込まれたときのそれより、女の子に平手打ちされたときのものより、はるかに上回って俺の心を襲い、揺さぶった。
可愛い妹のような後輩、から、気になる可愛い女の子、に変わりはじめた頃の話である。一ヶ月ほどは立ち直れなかった。いや、今も立ち直れてなんかいない。

高校から他校の先輩後輩として付き合ってきた俺達は、なんとなく進学して、なんとなく同じ大学に入っていた。
俺は結局、『先輩』の立ち位置から一歩も動けていない。
でも、同じ学年で同じ学科で、バレーが好きでおれと話が合う男の人のことが気になる、とスタバのキャラメルマキアートを飲みながら恋愛相談を《ふっかけてきた》あの子には戦慄した。
例えるならそう。何の装備もつけていないただの村人Aが、屈強な勇者Bに大きな斧を振り回され襲いかかられたぐらいの爆弾発言だ(結局 斧なのか爆弾なのか、はたまた両方なのか)。
「……で、なんだか話が弾んで。おれの好きなアーティストとかも一緒なんです! 今度 ニューアルバム買いに行こうとか話になって。って、話し聞いてます? 及川さん!」
「ふう、ん。その気になる男の子って、この及川さんよりかっこいいの?」
「えー、そりゃ及川さんの方がかっこいいですけど」
「えっ」
「でも、あんまりかっこよすぎてもおれ恐縮しちゃうっていうか……」
この小悪魔め。
好きな子に好きな人がいる、なんてあまり考えたことがなかった。大抵の女の子は皆、俺のことを好きになっていたから。こんな時、俺はなんて言えばいいのだろう。
先輩として、頑張れとその恋を応援してやるべきか、男として、本当は君のことが好きなんだ、なんて言うべきか。
「じゃあ、あれだ。翔陽ちゃん初デートじゃない。なんなら俺が、手取り足取り、デートについて手解きしてあげようか!」
なんかよくわからない方向へ進んで死んだ。

二人が付き合い始めた。それはとても素晴らしいこと。翔陽ちゃんは相変わらず、俺を兄のように慕う。彼女の実の妹よりも、両親よりも先に、初めて『彼氏』を紹介した相手も、この及川徹だ。
彼は爽やかな好青年というイメージがピッタリくる男だった。挨拶はしっかりとしているし、気が利く。面白い話はできるしジョークだって言う。ルックスも俺ほどとは言わなくても、上位に入るくらいは良いんだと思う。
何よりバレーが好きだった。そして翔陽ちゃんと同級生だった。ーーそれだけでもよかったのに。
俺から見ても、彼は俺に似ていた。性格は大分 違いを感じたけど、さりげない何か、が自分のそれに似ていると感じる。
翔陽ちゃんは俺が、はたまた彼女自身が俺と同級生だったら、可愛い彼女として、俺の横で笑ってくれていたんだろうか。
今更 悩んでたって後悔したって遅い。大事な大事な翔陽ちゃんは、彼女を守ってくれるかっこいい彼氏を手に入れたんだから。
「及川さん、昨日のデートの話聞いて!」「へえ、良かったじゃん!」
「及川さん、今度の休日、また三人でーー」「おっ、いいねえ。じゃあイケてる先輩の及川さんが奢ってあげよう」
「及川さん! あの人が新しいバレーシューズプレゼントしてくれたんです!」「ほぉー、彼氏くん、いい趣味してるじゃない?」
彼が、翔陽ちゃんを幸せにするのが役目なら、俺は彼女を楽しくさせるのが役目のはずなんだ。

*・*・*

部屋でゴロゴロしていたら、たった一度切りチャイムが鳴った。宅配は頼んでいない。勧誘かも、と思ったが、俺はチャイムを鳴らしたのが誰なのか気になってしまった。
玄関扉を開けると、見慣れているけど知らない女の子がいた。
俺はあまりの驚きに、つい何度も何度も目を瞬かせてみせる。
「及川さん、おれ、なんかまちがってたのかな」
何を隠そう、正体は翔陽ちゃん。
今日は一日中 雨が降る予報で、じめじめむしむしと暑苦しい夏の、とある平凡な一日のはずだった。
買い物に行くとか、誰それと遊びに行く、とか予定なんて一切入っていない憂鬱な午後のこと。
暑がりな翔陽ちゃんは、五月下旬には既に、寒々しいシャツを一枚着て過ごしている。だがしかし今はどうだろう。雨が降っているといえ暑い八月の今日。湿気が多く逆にむしむしと感じて、暑い。
けれど久しぶりに会った翔陽ちゃんは、分厚いパーカーを着込み、俺の住むマンションの部屋前で立っていた。
「どう、したの翔陽ちゃん。久しぶりだね」
いつもより明らかに元気がない。
いつもより明らかに暑そうな格好。
いつもより明らかにーー
「高校から伸ばしてた長い髪、切っちゃうなんて知らなかったよ」
長かった明るくてふわふわの髪の毛が、男のように短くなっている。
「とりあえず部屋入ろうか? 傘ささないで来たの? 流石に冷えるから遠慮しないでーー」
「及川さん」
聞いて、と心内にまで呼びかけるようなそれに、いつものポーカーフェイスが崩れてしまった。急いで笑みを作り取り繕う。
いつも目を合わせて話す翔陽ちゃんは、今日はずっと床と目を合わせている。
「おれこわいよ。だいじなものしんじてたもの全部彼にとられた。はじめは学校で、次にバレー、携帯、情報、友達、願掛けで伸ばしてた髪もとられちゃった。おれ、わるいことしたのかもしんない。でもこわい。次になにとられんだろうって、すごく心配になった」
「! 翔陽ちゃん、最近 学校にも携帯にも出ないでいたのって……」
「及川さんだけはおれが守るから。彼が、あいつが知ってるのは、もう及川さんだけだから。及川さんだけでも、絶対にとられないようにするからーー」
「ば……っ」
怖かったのは俺だ。そのパーカーの下に、もしかしたら青痣や傷でもあるのかもしれない、いや、あるんだろう。
最後に見た時より細くなった足が、運動部員であった形跡を無くしている。
思い当たる節はいくつもあった。来なくなった学校、出なくなった携帯、翔陽ちゃんが俺の前からいなくなってから、より楽しそうに笑うようになったあの男。
「馬鹿 そういう時にこそ俺を頼んなよ! 俺は翔ちゃんにとっては頼りになる先輩か兄なのかもしれないけど! 俺はもっと……もっと頼って欲しいんだから……」
こういう時にうまく言葉が出ない。
わかっていたのに行動に移さなかった俺も、今の俺も、全部 俺が馬鹿を仕出かした。
「おいかわさん……?」
こんなに声が弱々しかったか? と思えるくらいの小さな声で、翔陽ちゃんは俺の名を呼ぶ。『及川さん』が、いつか『徹さん』になってほしい、と青臭いことを考えていた頃を思い出す。
「DV男には、もう絶対譲らないから」
「え?」
「だから、お願い。俺のこと頼って。俺は翔ちゃんとこと好きだから」
抱き締めた身体は、思ったより細く華奢だった。翔陽ちゃんは思ったより安心したのか、思いっきり泣いている。
その瞬間、もう翔陽ちゃんは、俺のことを『頼りになる人』としてずっと生かしていくのだと確信した。俺は彼女を抱きしめながら、ちょっと泣いた。



この感情はなんていうのだろう。
ドロドロだ。

2014.08.10


pixivのほうにあげて長らく放置していた作品を、サイトの方にも持ってきました
pixivのほうにはちゃんねるのやつと一緒にまとめてあります
せっかくなので、サイトの方にも供養として上げときます……
あ、↑の年月日は、書き上げた日の年月日です
(2014.11.03)
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