今の僕にはこれで精一杯

■タイバニ/虎兎



「バニー」

何度言われたか分からなくなったそのあだ名。
前までは無視を決め込んだはずなのに、最近ではつい反応を示してしまう。

「……僕の名前はバーナビーです。何度言えばわかるんですか」
「えー、でもよ、そっちの方が親近感沸かねえか?」
「沸きません。何の用ですか」

本来の目的を忘れていた虎徹は、バーナビーの言葉に、忘れてた、と返す。
そんな様子にさえ溜め息をついてしまう。
こんなのはもう日常茶飯事だというのに。

「この資料に目を通しとけってよ」
「そうですか。分かりました……、これ、おじさんも目を通しといた方が良いんじゃないですか?」
「ん?おー、じゃあ読み終わったら貸してくれ。俺休憩してるからよ」

つくづくいい加減な人だ、と口には出さず心の内に呟くと、わかりました、と返事を返すバーナビー。
それに対応した虎徹は、軽く手を振りながら去っていった。

*・*・*

資料を確認し、バーナビーは休憩室へと歩く。
見覚えのある姿を見付けると、バーナビーは歩く速度を緩め、相手に話しかけた。

「おじさん、確認し終わりましたけど」
「はえーな! っついうかよ、俺待ってる間に思ったんだけど」
「……なんの突拍子もなく話を始めるの止めてくれませんか」
「まあまあ! そんな長い話じゃねえから!」

無理矢理ソファに座らせられ、仕方なく話を聞き入れる体制になったバーナビー。
虎徹はそれに満足したのか、よし、と頷き、話を進めた。

「でな、待ってる間に思ったんだけどな、バニーってあだ名に反発すんなら、俺だっておじさんって名前じゃねえって考えてt、ちょ! たんま帰んなって!」
「何を子供みたいな! だいたい僕は本当にバーナビーって言う名前ですし、僕から見ればおじさんは年上だからおじさんで十分です!」
「えっ、お前なにげに酷いこと言わなかった!?」

回りの人たちはお分かりの通り、子供じみた喧嘩を何故か生暖かい優しい眼差しで見ている。
そんな視線にも気付かず、二人は口論を続けた。

最終的には、バーナビーの強烈な蹴りが虎徹の脇腹に直撃した。
予想外に蹴りが当たってしまったことに珍しくあわてふためくバーナビーと、腹を抑え、痛みに悶える虎徹が居た。

「あの、すみませんでした。まだ痛みますか?」
「痛いも何も……。むしろ痛み通り越してるからな。通り越して感覚無いからな!」

医務室。
湿布の臭いが充満する部屋で、それ以上に湿布特有の臭いを発する虎徹。
彼の腹には無数の湿布が張ってある。

「あー、まあ良い。俺も大人げなかった。だかな、もう蹴るのはやめろ。な? そういや休憩室に資料おきっぱだと思うから取ってきてくんね?」
「、わかりました。っその、」

去り際、扉の前で立ち止まったバーナビーは、虎徹の方へ振り替える。
虎徹は少し驚いたが、聞く体制になっている。
自然に目線が虎徹と合い、バーナビーは小さく呟く。

「ほ、本当にすみません、こっ、虎徹、さん、」
「!!」

それだけ言うと、バーナビーはさっさとその場を去る。
虎徹はいまだぽかんとしている。
医務室ではただ、湿布の臭いが充満していた。


今の僕にはこれで精一杯



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