ハルシオンは眠らない

■ハルシオンの夜明け続編、前作をお読みになってくださった方がわかりやすいです
■赤根さんに捧ぐ
■途中 スポーツショップやバレーボールやる際の道具とか出てきますが素人ですので、間違ったことが書かれていてもご容赦ください


「あれ? 及川さん?」

ごめんね岩ちゃん、俺、今日の待ち合わせ場所に行くことは無さそうだ。



俺の目の前で、美味しそうに特大チョコレートパフェを食べている少女。以前会った時と同じ様な、ふわふわと揺れる明るい髪と満面の笑顔が俺を癒す。
正直、そんな大きなパフェを俺の前で頬張る女の子は見たことがない。むしろ女子は体裁を気にして、私少食だよアピールをするはずだ。そんな生き物なのだ。少なくとも俺に接してくる女の子は。
けれどこの子は違う。学校は違えど同じ男子バレー部に所属し、彼女はマネージャーとして部を支えている、意外に俺と繋がりのある女の子。
この日向翔陽ちゃんだけは。
「翔陽ちゃん。メールしかしてなかったから、あの日以来だね」
「あっはい! そうだな……ですね」
慌てて口に含んでいたパフェの一部を飲み込んで、翔陽ちゃんは答える。
そう、初めて部活以外できちんと話をしたあの日からもう既に約二ヶ月。俺としてはあれは事件として分類されるが、今となっては良い思い出……だ。
部活命な翔陽ちゃんは、何度か遊び(デート)に誘ってみだが、部活が補修が(どうやら頭があまりよろしくないようだ)、と忙しそうで結局、今まで会うことができなかったのだ。
しかし今日、住む場所が離れているというのに偶然に出会えることができて、本当に奇跡だと思った。というか、運命だ。絶対そう。俺の恋の女神が微笑んでるに違いない。
いけ及川徹よ、と。このチャンスを逃してはならん……と!
残念なことにここは「あの時」の商店街。おしゃれなカフェは無い。俺としてはちょっと……とか思ったけど、翔陽ちゃんにはファミリーレストランとかの方が、親しみやすいし、堅苦しい感じがなくて良いだろう。
早速、商店街を抜けたところにあるファミリーレストランに立ち寄ろうと誘ってみたら、彼女もちょうど自分の用事を終えたところのようで良い返事が返ってきた。ホント運命としか言いようがないよネ。
「でも本当に良いんですか? パフェ奢ってもらっちゃって……」
「ん? いいよいいよ! この前の一ヶ月越しのお礼ってことでさ。このくらいはさせてよ」
もくもくとパフェを咀嚼しながら、翔陽ちゃんは上目使いで聞いてくる。ああ可愛い。計算でこんなことをしているわけじゃないと分かっているから、尚更 俺の頭上にハートマークが浮かぶ。
「そう……ですか? じゃあお言葉に甘えて!」
名字のままに、太陽のような笑顔を惜しみなく引き出す。元々 人見知りとかしないタイプらしい。まだ会って数回の俺に、もうだいぶ気を許しているようだ。結構こっちは、不埒なことを考えてるんだけど。
「ところで翔陽ちゃん、この後 空いてるかな」
「このあとですか? 特になんも……あっ、スポーツショップ行こうかなって」
この商店街の、と付け加えながらこの子は器の中身を食べ進めて行く。
「じゃあさ、それ、俺も付き合っていいかな?」
「え? 良いですけど……」
ちらりと翔陽ちゃんの顔を覗いてみる。私の買い物に付き合って楽しいのかな、と顔に書いてあった。女の子に関しては百戦錬磨の色男、及川徹を舐めることなかれ。この程度のことはお見通しだ!
「俺も元々はスポーツショップに行こうと思っててね。ほら、バレーで使う時のサポーターとか買おうと思って」
優雅にコーヒーを飲みながら、いつものようににこりと笑う。スポーツショップに行こうとしていたのは事実だったのだ、問題はない。あ……岩ちゃんにメールしてないわ。殺されるなコレ。

口いっぱいに甘いものを詰め込んでいた翔陽ちゃんは、最後のそれをごくりと飲み込んで、少し考えてからいいですよ! と笑った。

*・*・*

商店街の中ほどにあるスポーツショップ。バレーボールものの他に、テニスにバスケなど、特に球技種目のものを中心にグッズを置いている、わりと大きな店だ。
品揃えも良い方で、個人で来る時は大体 この店にしている。話によると、翔陽ちゃんも中学時代からたまにここを利用しているそうだった。なんで気づかなかった俺?
「今日は何を買いに来たの?」
店内の奥の方にあるバレーボールのスペース。なんだかんだ言って、やっぱりボールやシューズを見ていると心が落ち着く。いや、心が騒いでしまう、が当たりかも。
「あ……、今日はまだ。けど近々、合同練習とかあるんで、テーピングとか救急セットが主です」
部活の時 書いたものなのか、「買うものリスト」と書かれたメモ帳を見ながら翔陽ちゃんは真面目に答えてくれた。
まあこのくらいの情報じゃ大したことではないけど、敵高校のチームの主将にさらっと答えてしまうなんて、翔陽ちゃんたら間抜けちゃん。そこが可愛いんだけどね?
「じゃあ俺のオススメ教えてあげるよ。烏野には血気盛んな奴が多そうだから、怪我多いでしょ」
「ブフッ、そうですね……!」
思い当たる節の奴がいるようだ。あらかた予想はつくけど。
「コールドスプレーとかさ。テーピングは安く多く、がいいだろうし……俺のオススメなんだけど……あれ? 前来た時はここのスペースにあったんだけど……ないや」
眼をさっと商品に通すが、目当ての品が見当たらない。無いんじゃ、折角のチャンスが台無しだ。
「もしかして、アレじゃないですか?」
「えっ?」
「あの、緑色の箱……」
「……ああ、アレだよアレ! 高いとこの商品棚に置かれてたんだね」
翔陽ちゃんの目線の位置、お目当てのテーピングセットがあった。テーピングと言えどたくさんの種類があるのに、一発で俺の目当ての品を見つけて当ててしまうなんて、以心伝心てやつだろうか!? 長年 連れ添っている夫婦のようで、思わずにやけてしまう。
「俺、取りますね!」
もちろん翔陽ちゃんは、俺がそんなことを考えているだなんて露ほども知らない。
我に返った時には、任せてください! と言わんばかりに目を輝かせ、小さい背でうんと背伸びをしながら、商品に手を伸ばしていたところだった。
ああ、なんだか危なっかしいなーー。
と、ぐらつく足元を眺める。ここで下手に手出ししたら逆に危ないかもと思って、見守るに徹しよう、としたのが判断ミスだった。
「わっ?!」
バランスを崩した彼女は、なんとか自身で踏ん張り立て直そうとするが、上から取りかけていた件の品が落ちてきて、まさに危機一髪な状態だ。
俺はあの日の既視感を感じながら、倒れる前の彼女の背後に回る。小さな肩を倒れないようにと抑えて、抱き込んだ。
商品が俺にも彼女にもぶつかってきたが、まあ重いものでもないし大事ない。
「………」
「あ、及川さん……俺……」
心底申し訳ない、といった表情の翔陽ちゃんが、後ろの俺を伺い見る。
別になにも悪いことはしてないじゃない。
「大丈夫だよ、翔陽ちゃん。ワザとじゃないんだし。それより怪我してない? 大丈夫?」
「えっ? あっ、はい! 大丈夫ッス!」
それより及川さんが、商品が、と言って翔陽ちゃんは青い顔で俺や周りをを見回している。だいぶ品物が落ちてきたみたいで、箱の中身も散乱しているものもあった。
「あちゃー……、すごいねコレ」
「お客様、大丈夫ですか!?」
大きな物音を聞いた店員が、急いで駆けつけてきた。床に散乱するものや商品棚の空白に事態を読んだのだろう。すぐにお怪我はございませんか、と様子を伺ってくる。
「僕も彼女も大丈夫です。商品を棚から取ろうとしたら、他のもの巻き込んで落ちてきてしまって……」
「そうでしたか。お怪我がないようで何よりです。こちらのものは、我々で片付けておきます。お客様方はお気になさらずにーーお客様、お顔が赤いですが……もしかしてぶつかってしまいましたか?」
店員の目線は俺から、俺の背後の誰かへと移る。今のちょっとした事故、にあったのは俺と翔陽ちゃんしかいない。では十中八九あの子だろう。
ていうかなんだって!? 翔陽ちゃんの可愛らしい顔に怪我が!?
「大丈夫、翔陽ちゃん?」
「えっ! あっハイ! ダイジョブです、ダイジョブ!」
確かに顔は赤い、がそれは腫れて赤くなっている、とかそういう赤みでなくて、なんだか別のーーまるで照れているみたいな。
「……? ……もしかして、翔陽ちゃん照れてるの?」
「!!?!? そっ、そんなことないですっ!」
店員さんごめんなさいっ、と早口に、翔陽ちゃんは脱兎のごとく逃げてしまった。俺も店員も、間抜けヅラで立ち尽くしてしまう。
「……あれ? 翔陽ちゃん、荷物忘れてるし……」
散乱した物物のなかに混じって、彼女のバッグが置き去られていることに気付く。
とにかくこの場を店員に任せて、急いで店外へと出た。彼女は割と近くで待っていて……というか店の扉の前で立っていて、バッグを忘れた羞恥からか先ほどよりも真っ赤になっている。
「す、すいません。何からなにまで」
「いいよーもちろん。女の子の危機から体張って救うのが男だしね! バッグ紛失も女の子にとっては危機だし」
この季節の日の落ちは早い。気づかないうちに、入店した時よりほんの少し暗くなっている。
「また駅まで送ってくよ」
「う、ウス。ありがとうございます」
未だ赤みを帯びてるらしい顔を、極力そらしながら頷いているのを見てそれ了承と汲み、
バッグは手渡さないまま、駅まで俺が持って行くことにした。



「ねーえ翔陽ちゃん。俺わかんないんだけど」
「はっ、はい!?」
頬の熱も冷めたのか、隣に並んで歩き始めたのを見計らって、ここ数分間の疑問を解消したくて口を開いた。予想以上の反応が、つい俺が悪いことをしているようで(実際そうかも?)、笑ってしまった。
「なんで照れてたの? まさかー……俺の優しさに惚れたとか!」
わざと茶化すように語尾にハートマークをつける。場を和ませる一種の芸(のつもり)だ。あと「俺のそうであってほしいなー」という願望。
「え。えーと、そういうんじゃないんですけど……」
あれっなんだろう、今、及川ザマーーーwwwm9(^Д^) と聞こえた気がする。気のせいだといいな……うん。
「でっでも、照れちゃった……っていうのは本当ですっ」
もごもごと、いつもより幾分も歯切れ悪く彼女は答える。
「なんていうか……俺、こんな性格だからか、あんまり女子扱いされたこと無くて……烏野でも先輩達はともかく、影山とかに散々 女子らしくないってからかわれてて……」
うっわ、飛雄ちゃんたら何やってんの。俺なんか毎日会えるわけでも、声を聞けるわけでもないのに! 俺の後輩として恥ずかしいよ! こんな可愛い子に!
「だからさっきのとか……俺のこと心配してくれたりとか、今も荷物持ってくれたりとか、駅まで送ってくれたりとか」
「このくらい、俺ならいつもやってあげるよ」
だから、今は部活大好きな翔陽ちゃんでいいから、いつかそういう時が来たら俺を選んで欲しい。やましい気持ち半分、切実な気持ちが半分、想いを込めてみた。
「照れちゃったのって、自分が珍しく……って失礼か。……女子扱いされたから?」
「うーん、それもあるかも! でも……」
「でも?」
「及川さんが相手だからっていうのもあるから……かもです」
「えっ」
「ほら、及川さんて顔だけは極上品だから! って影山と月島が言ってました!」
「………」
ここまで上手くいかない俺の恋愛も珍しいよ、翔陽ちゃん。
どうやら俺の恋愛の女神は微笑んでいてくれても、あちら方の女神様はこれっぽちも微笑んでないらしい。
「ま、ここまで燃え上がるのも好きなんだけどね」
最寄り駅まであと数百メートル。すっかりいつものペースを取り戻した翔陽ちゃんは、もう明日の部活動のことでいっぱいなんだろう。俺の独り言など聞いてちゃいない。
「あっ、及川さん、今日サポーター買うって……!」
「え? ああ良いよいいよ、また来ればいいしサ。急いでもいないし……」
「でも……」
「……! じゃあさっ、今度空いてる時でいいからーー」
今度こそ俺は、彼女の女神様の気だけでも引こうと、早速 次の予定を聞き出すことにした。

*・*・*

次の日。俺が学校で岩ちゃんにぶん殴られたという事実(こと)は、言うまでもないッ!


ハルシオンは眠らない



ひ、久々に一本書き上げ……!
まじで誰か私を殴ってください……!
一応、企画もの、前作の ハルシオンの夜明け の続編となります!
リクエストありがとう、赤根ちゃん!

せめてアニメ放送日までには書き上げようと思ったんですけどね……私って……ほんと馬鹿

(2014.04.08)
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