だって恥ずかしいし

■ テニプリ/謙(→)←光


暑い日差しが肌を照りつける。
過ごしやすい春も過ぎ、鬱陶しい梅雨も明け、これから来るであろう暑い季節の夏に、謙也は若干表情を曇らせた。
暑苦しい男だと評される謙也だが、実はあまり夏は得意な方ではない。
速さを得意とし、またそれを武器とする謙也は、どうしても心身共にだらけてしまう夏が好きにはなれないし、苦手だった。
夏の風物詩である、喧しい蝉の声に対して小さな息をつくが、それで暑さがどうにかなるわけもなく。
わかってはいるけども、せめて蝉の鳴き声さえなかったら暑さは和らぐのではないか、と内心で小言のように呟いた。

「謙也あ! なにボーッとしとるんや! もう試合終わったで、早よしい!」
「えっ、あ? す、すまん!」

突然の白石の声に、はっと我に帰る。
しまった今は他校との練習試合の途中やった! と思うも時すでに遅く。
試合はいつの間にかおわっており、他校の選手たちと見知った顔ぶれの選手たちは、既に整列を終えてむかいあって並んでいた。その場にいないのは謙也だけだ。
今日みたいな、一番最初のゲームに出て、そのあと出番がないような試合はついボーッとすることが多くなってしまう。
急いでコートまで走ると、一番手前にいた財前に小突かれた。

「先輩、ださいっすわ」
「うっさいわ!」

財前の隣につきつつ、いつもどおりな返事を返す。
相変わらずの毒舌だが、これが財前の個性の表現だと思うと、微笑ましく思えることも増えた。初対面の時は少し険悪だったが、時とは不思議だ。
監督同士の挨拶が終わると、他校の方の部長が声を大きくして叫ぶ。

「気をつけ、礼!!」

ありあしたーっという気の抜けた声がコートから響き渡り、ここでようやく、長い部活が終了を告げた。

*・*・*

今日の練習試合は四天宝寺での開催だったので、他校のバスを見送ってからレギュラー陣はやっと片付けを始められる。
最後の最後でやってしまった失態に自分を責めつつ、数週間後に行われる府大会へ向けて己に喝をいれた。
気合いを入れ直すと、また始まったユウジと小春のいつもの応酬を眺めながら、その後ろを無関心そうに通り過ぎる財前に、自然と目がいく。

(……ん?)

財前の耳が、傾き始めた太陽によって一瞬キラと光る。正確には、財前が耳につけているピアスが、だけれど。

(なんやいつも付けているのとちゃう……?)

普段彼が付けているのは、五色のリングピアスだが、たまに違うものをつけてくる時がある。
見たことがあるのはドクロとか音符とか、最近見たのは石が埋め込まれたピアスだったはずだ。ここからだとよく見えないが、多分今日つけてるのはおにゅーのものだろう。
太陽に照らされ光ったときに、今まで見たことない金色にひかったから。
これは一年間、内緒でチェックをつけてるこの謙也が見に行くしかないやろ! と一人意気込んで、謙也は急いで財前に向かっていった。

「ざーいぜん!」
「なんすか」

まだ額に汗が滲む財前をみて、そういえば最後のゲームは相手とのシングルスだったな、と記憶のはしっこを引っ張り出す。
ゲームの前半しかちゃんと見ていなかったので、結果はわからないが、記憶に残っている前半のプレイと、機嫌よく返事を返してくれた相手を見れば、結果は一目瞭然だった。

「さっきの試合、お疲れさん」
「あれ、謙也さんちゃんと見とったんすか」
「えっ? ま、まあ後輩の試合見たるんは先輩の務めやからな!」
「……別に無理せんでも、見てなかったって言えばええっすわあ」

図星をつかれ、顔に出してしまった謙也に全てを悟った財前はそっと息を吐いた。
その態度に、謙也は言い返そうとするも今回は自分が悪いため、ぐっと押し黙る。
で、なんか用があったんじゃないですか、と財前が黙り込んだ謙也に変わって話しを切り出した。

「お、おう、せや今日は新しいピアス付けとるのとちゃう?」
「え。ああ、せやった。忘れてましたわ。よお気づきましたね」
「いや光で反射しとって……見せてえや」

本題を口にすると、本人も忘れていたのか耳に手を触れる。
おかげで耳が手の影に隠れてしまい、肝心なものを見逃してしまった。

「別にええっすけど……ん?」

耳から手を離そうとした財前の動きが止まる。
それから微動だにしなくなってしまったので、心配した謙也が手を伸ばした、瞬間、

「ざい……「やっぱダメです!」……は?」

今まで聞いたことない彼の大声に今度は謙也が動きを止める番だった。

「ちょお暑いんで顔洗って来ますわ!」
「えっ、えっちょ、ざいぜーん!?」

スピードスターも吃驚な速さでその場をたち去った財前に、謙也はとっさに動くことができず、行き場を失った手をひらひらとたなびかせた。

「なんなんや……ホンマに」

立ち去った彼の顔があまりにも赤くて、新たに発見した表情に、愛しさを抱きつつ。

*・*・*

財前はタオルで顔を乱暴に拭きながら、顔の火照りが冷まるのを待った。
こんなんキャラやない、と思いながらそのままタオルに顔を埋める。
かといってもうそろそろ部室も閉まってしまうし、このままでいるわけにはいかない。
はーっ、と大きな溜め息をついて、財前は気持ちを落ち着かせるのに専念する。

「なんで今日に限ってめざといんやあの人……」

今日、寝坊して遅刻しそうになって、とっさに掴んだのがこのピアスだった。
まさか、自分としたことがロマンチックにも、あの人のことを考えながら買ったなんて。
なんだか振り回された気分だ。

「くそ……謙也さんの、アホ」

耳に飾られたそれは、小さな星が三つ連なった、金色に輝やくもの。

「あとで絶対、善哉おごらせたる!」

財前はピアスを乱暴にはずすとポケットにしまった。
当分身につけてやるものか!



制服に着替えた謙也が財前を呼びに来るまで、あと三十秒。
漸く火照りを鎮めた財前が謙也に毒舌をつくまで、あと四十秒。
ピアスがはずされているのに謙也が気づくまで、あと四十八秒。
財前が残念がっている謙也を鼻で笑いながら善哉を強請るまで。あと、




支部から。
テニプリ再熱時に書いたもの
四天ちゃん可愛すぎて吐く
▼気持ち謙(→)←光 ▼テニプリ再熱やばい///// ▼季節ガン無視 ▼てにすわからぬ ▼けんひかわいいよおおおおおおおお!!!!!!
(2013.01.10)
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