The summer vacation to love

■プールの監視員二人の話
■エレン♀化→一人称 私、身長が本家設定より−10cm
■大学生リヴァイ×高校生エレン


父の知り合いの勧めで、夏休みに短期アルバイトをすることになった。
ちょうど短期のバイトを探していた私にとって、面接パスの採用は美味い餌でしかない。
知り合いの紹介を二つ返事で了承し、最寄り駅から四本目の駅近くにある、市民プールの監視員に採用された。
普通の女子のように肌が焼けることの有無には執着していないし、特別肌が弱いわけでもない。体力にも自身があるし、医者の父を持つ自分は、少しだけなら溺れた者に対しての処置にも覚えがある。
だから実際、この監視員のバイトに不安も不満もない。
だが、いざやってみると落し物の回収や迷子の放送、飛び込みの制止など、案外暇な仕事だったりする。決して救助者が出てほしいわけではない。むしろ無いことが望ましいのだけれど。
もちろん、もしもの時のために気を抜いてはいけないのはわかっている。けれど平和な一時に気が緩んでしまうのは確かで。
自分の担当区域全体を見渡せる、背の高い椅子から辺りをよく観察するが、これといって何か起きている様子ではなかった。
「……ン、エレン!」
「!? はっ、はいっ!」
ふっと気を抜いた直後、見計らったように下方から声がかけられる。呆れたような声色だ。椅子から急いで降りると同じ目線にある藍色の瞳と目があった。
「な、んですか、リヴァイさん……」
「昼休憩の時間だ、アホエレン。三十分以内に昼食を摂り終われ。いいな」
「えっ? あっ、ホントだ!」
「ちっ……良いから早く行って来い」

リヴァイは自分の左手首の腕時計を、右人差し指でコツコツと叩きながら休憩を促している。
プールの監視員は、常に二人ずつ、離れた位置に一人ずつ配置されている。
昼休みの際は、一人が先に昼食を摂り、三十分で交代。もう一人がその後に摂ることになっている。
彼女の相方として雇われているのは、大学生のリヴァイだ。彼も同じく、短期で働いている。
彼はエレンと同じ身長で(決して小さいとは言ってはならない)、見た目(だけ)は小柄だが、半袖の上着から覗く腹筋は、同年代同性のそれよりもあるのが見てわかる。
かなり鍛えぬいているようだ。
そういえば、運動量の少ない夏休み中は、毎朝十五キロのジョギング通っていると聞いた。
「ありがとうございます、わざわざ声かけてくれて」
「早く行け」
「……はい」
エレンの心情はここで一気に急降下する。
プールスタッフの休憩室に向かいながら、バイト開始から二週間の間のことを考える。
最初に気になったのはなんだったろうか。
声? 目の色? 手? 鍛えている腹筋? エレンは別に何フェチというわけではない、と思案する。
やはり、バイト当初の、リヴァイと臨んだ三回目の監視員のときのか。
思い出してエレンは赤面した。
意外と滑りやすいプールサイドで、ドジっ子よろしく転びそうになったときだ、あれは。
『プールの監視員のくせに仕事場で怪我する気か?』
『す、すみません!』
『……次にこんなことあったら容赦しねえからな』
後ろ向きに倒れこみながら衝撃を待つのみとなったエレン。の腰に回された腕がそれを阻んだ。
腕一本でエレンを支えながら、文句を言うリヴァイの瞳は、わずかに不安に揺らいでるように見えて。
あれからというもの、素早く打つ心音に?マークを浮かべるより早く、もしかしてそれは恋というやつでは、という答えが、すとんと心に落ちた。
恋をしている、と考えると襲う羞恥の波。首を激しく横に振りながらそれを払う。
なんにせよ今は仕事中だ。目の前のことに集中しなければ。
「お疲れさまでーす」
「あ、やあエレン。お疲れさまー」
「お疲れさまです、ハンジさん」
売店スタッフのハンジが、支給の弁当を口にしながらエレンに応える。室内にはエレンと彼女しかいないようだ。
ハンジは、エレンがリヴァイに恋心を抱いていると唯一知っている人物で、更に彼と高校からの腐れ縁ということもあり、エレンの恋愛相談に一役買っている。
「さっきリヴァイが呼びに行ったけど、なんか言われなかった?」
「アホって言われちゃいました……」
「女の子にも容赦ないなあ、彼は……」
「いやでも、うっかりしてた自分も悪かったですから」
お互い苦笑いを零しながら、エレンはハンジの隣の席についた。
ハンジが見計らったように弁当を差し出す。ありがとうございます、と礼を述べてから受け取って、漸く休憩時間だと実感できた気がして一息ついた。
室内は外と違って、冷房が効いている。
「まあ、あれでもエレンのこと可愛がってるんだよ」
「うーん……」
可愛がっている、とは後輩に接するようになのか、妹に接するようになのか、それともまさか。
ハンジの言葉が曖昧に応えて、もくもくと食事を進めていく。
彼女はもう食事をし終えているようだが、休憩時間はまだあるようで話を続けた。
「でもさあ、去年もここに、リヴァイとバイトしに来たんだけど、あいつの相方の子が違う大学の女の子でね」
「はあ」
「まあ天然っていうのかな? よく休憩時間間違えたりしてたんだけど、リヴァイったら全然興味も示さず、呼びに行ってもあげず、だったんだよ」
「そうなんですか……?」
「そうそう! 自分のことは自分でやれ、っていうのがリヴァイの論だからね。少なくとも、エレンは気に入られてると思っていいと思うな?」
ハンジの励ましに少し元気がでた。バイトを通じて、彼の人に対する態度が冷たいのはわかる。自分に対するそれは、前向きに捉えていいようだ。
「それにしても……リヴァイの好みが『ヘアスタイル知識豊富な女性』って……マジ?」
「うっ……。本人がそう言ってたんですけど……。やっぱからかわれたんですかね?」
「んー、いや。うん、……ふふっ」
「な、なんか言ってくださいよ!」
気持ちを自覚してから一週間、頑張って聞き出した『リヴァイ好みの異性のタイプ』。
当たり障りの無いように、勘付かれないように聞き出したそれ。
仕事終了後の、最寄り駅までの僅かな時間に聞き出した。不自然にあっと声を上げ質問したエレンに、眉を寄せながら彼は、確かにこう応えたのだ。
『ヘアスタイル知識豊富な女性』、と。
答えてくれる前に、妙な間が空いていたが……。もしかして本当にからかわれていたのかもしれない。
考えて、エレンはしょんもりした。
この二週間、夏休み中に切ろうと思っていた肩甲骨下ほどの長い髪を、らしくもなく着飾ってみたのに。
ちなみに今日の髪型は、両サイドから少量髪をとり、それぞれきつめに編み込みを作って後ろに束ねた、ハーフアップである。少し気合を入れてウェーブ入り。
「こんな可愛い子を。まったく、リヴァイもひどいよなー」
「え」
「さあって! 仕事に戻るか!」
「ちょっ! ハンジさん、なんですか今のー!」
疾(と)きこと風の如く。謎の一言を残してハンジはさっさと出て行ってしまった。ひどい。
もしかして、二人でそろってからかっているんだろうか。
一度マイナスなことを考えると離れない優秀な思考に、エレンは一人、長ーい長ーい溜息を吐いたのだった。

*・*・*

「遅い」
想い人の第一声に萎縮。
エレンの目に映った彼は、些かーーいやかなり機嫌が悪いように見える。二十分で食事を終えたつもりだが。
「ちゃんと三十分以内でしたよ」
「……まあいい。さっきからあの高校生くらいのガキ共が、飛び込みやらなんやら騒がしい。よく注意しろよ」
「あ、はい。わかりました」
どうやら機嫌の悪さの原因はあれのようだ。
リヴァイが眉間に皺を寄せながら見据えている先には、いかにも暇を持て余していそうな男子高校生三人が。
ここからでもわかるくらいに騒がしい。
「あいつら。俺が何度注意しても静かにならねえ。次なんかあったら追い出せ。なんなら俺がなんとかする」
「リヴァイさんのなんとかする、は、鉄拳制裁じゃないですか!」
「あいつらもしてほしいから騒いでるんだろう?」
「どんなドMですかそれ」
「冗談だ」
わかりにくい冗談だ、まったく。

持ち場へと戻って行くリヴァイを見送って、さあ自分も仕事を再開しようと意気込んだところだった。
「こんにちはー、監視員さん」
「君高校生のバイト? かわいーねー」
いかにも頭の軽そうな風貌の優男。エレンの見た目の感想、訂正、いかにもではなくまさしくだ。
件の男子高校生三人グループが、男(リヴァイ)が離れた途端に、顔をにやつかせながらエレンの元へ近寄って来た。女一人になってから近寄ってくるとは、チキンのくせに、ほどほどにしろ。
エレンは隠そうともせず嫌悪に眉を寄せた。
それが気にならないのか気付いてないのか、一人がエレンの後ろから肩に手を回す。これを高校生Aとしよう。
「お客様、ナンパなら他所でなさってください。ここは公共の場です」
「おー怖。威勢いいねー、かわいっ」
エレンの腕にサブイボが立つ。
「ねえ、さっきのちっさい人ってさ。君の彼氏?」
「じゃないですけど。……お客様、本当に困りますから」
「いーじゃん。仕事なんかつまんないっしょ。金なら俺ら出すし。遊ぼうぜ」
若者達の言い争いに、周りはあっという間に傍観者に回っている。エレン達の周りだけ取り残されたように静かだ。
せめて一人くらい加勢してくれ。
「っ、そういう問題じゃねえよ!」
腕を引っ張られ、反射的に振りほどこうと力む。意外と弱く掴まれていた腕は簡単にほどけ、力んで拳を作っていた手が、高校生Aの顔面を直撃した。
「い"っ!」
「あっ」
エレンの素が言葉として出てきてしまったのも悪かったのか。ささやかな抵抗が、彼らに怒りの炎をつけてしまったようで。
「いってー! このアマ!」
「ちっ、下手に抵抗してんじゃねえよ。悪いようにしねえっつーのによ!」
「大人しくしてなって、な?」
「っ、離せ……! プールサイドで暴れんじゃねえよバカ高校生!」
腹いせに目の前に立っていた高校生Bの鳩尾に足技を決める。格闘有段者の友人、アニ直伝の蹴りだ。
「あっ」
しかし威力の強いこと。
反動で後ろに飛んだエレンは、見事にプールの中へと着水。
なんの体制もとれないまま墜落したエレンは、鼻に水が入ったこともあってすぐに浮き上がれず、意味もなく水中で暴れた。
ーーぎゅう、と閉じた瞼のなかに、影が映る。
何かに抱き寄せられる感触と水面に浮き上がって行く感覚にエレンは身を任せた。
「っう、ゲホッ、ゲホゲホッ」
「エレン! 大丈夫か!?」
「っは、……ケホッ。リヴァイ、……さん?」
「ああ。大丈夫……ではあるようだな」
思い切り飲み込んでしまった水を吐き出しながら、見知った顔を視界に収める。
騒ぎを聞きつけ助けてくれたのだろう。
心配そうに彼女を見つめている相手は、同じく監視員のリヴァイ。予想以上に近く顔があったので顔が熱くなった。
なんだか既視感(デジャブ)だ。
「あ、ありがとうございます……」
「………」
「り、リヴァイさ……?」
プールサイドまで引き寄せてもらいながら、無言のままの彼をエレンは横から覗き込んだ。
それを後悔してしまったのは何故だろう。
目線で人が殺せると思ったのは生まれて始めてだ。
そう思うほどに迫力のある眼力。自分に対して向けられている訳で無いのに、体が硬直して動かない。
今回の騒ぎの首謀者達であるグループも、蛇に睨まれた蛙ようにカチンコチンに固まっている。いや、龍に睨まれたミジンコか?
「お前ら……」
プールから出てきた龍が、今まで聞いたことのないドス声で囁いた。小さな声だったというのに、なんだこの迫力は。高校生達はさっきの威勢が嘘のように縮こまっている。
「こいつに手を出すってことは……それなりの覚悟ができてんだろうなァ……?」
彼が不適に笑んだ瞬間、あっという間だった。
あそこまで潔い土下座は初めて見た。

*・*・*

今回の高校生達は一応の被害者である、エレンの意向により、警察沙汰になることなく収まった。
ただし、彼らの保護者は呼び出され、三人仲良く愛の鉄拳をもらっていたので、エレン的には気持ち良い幕切りである。
「リヴァイさん、助けてもらってありがとうございましたっ」
騒ぎのあともプールは滞りなく営業された。
早めに切り上げた二人は、駅までの道程をゆっくりと進んで行く。帰る前にハンジがにやついていたのはなんだったのだろう。いやーエレン頑張ってね! そう言っていたがなんだか悪い顔だった。
「別に、当たり前のことしただけだろうが」
「そ、そうですね……」
彼にとっての『当たり前』が胸に突き刺さる。
夏休み中に告白、できるんだろうか。
未だ暑い日差しの中、エレンの心中を嘲笑うように蝉がなく。なんだよ。
「……お前、なんか勘違いしてるだろ」
「え?」
珍しく煙草を楽しんでいるリヴァイは、少しの沈黙のあと、はーと煙を吐いた。エレンはなんとなくそれを見つめる。
「俺に気があるらしい相方のガキが、最近髪型をちょこまかと変えやがる」
「……、……んっ?」
「俺はそのままでも良かったんだがな」
「……リヴァイさん? えっ? 」
「好みのタイプはなんだと聞かれて、目の前のお前だと答えを言うのはつまらないから遊ばせてもらった」
「うそ、……」
「好きでもない奴に、俺があんなに密着すると思うか?」
耳まで赤い、熱い。
驚きのあまり、エレンは歩を止めた。リヴァイは一歩先行き、立ち止まる。
「お前も知ってんだろうが。俺は潔癖性があるって」
煙草の煙の向こう、リヴァイは悪い男のように笑う。
「私、悪い男に騙されてたんですね?」
「人聞き悪いぞ、エレン」
俺はもうとっくに、お前に振り向いてんだよ馬鹿が。
煙草ケースと一緒に持ち歩いている携帯灰皿に吸殻を押し込む。目の前には、お互いが好いている異性が。
「ガキが。今日の髪型は、なかなかだぞエレン」
「っ、こんなの! 詐欺と一緒だ!」


The summer vacation to love



The summer vacation to love = 恋する夏休み

な、なにこのラヴコメ……^p^おえっ
ハンジさんは進行上女性になりました。
リハビリがてら書いたので、読みにくい、読み飽きる、最後が盛り上がらないというこの駄作さ!( ^ω^ )にこ!
生暖かく見守って下せえ……
(2013.08.14)
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