悪魔向けじゃないらしい

■夜燐
■いろいろ捏造してます。燐ちゃん虚無界暮らし、夜さんは従者です


虚無界の神なる存在、青焔魔。
その偉大なる青焔魔の力を継いだのが「若君」。
それが、全悪魔が俺の主人ーー燐への見方だった。
神なるお方の力を受け継いだ若君に軽々しくせっするなんて恐れ多い、というらしい。
だが、俺は少しもそういう目で見ていない。
少なくとも、「青焔を受け継いだ落胤」などとは。決して。
理由の一つとして、燐がこの言い方−−若君という呼ばれ方を酷く拒むのだ。
小さな小さな俺の主人は、いつも悪魔とはおもえない無邪気な笑顔で笑い、従者の元へ駆け寄り、自分の心配より誰かの心配をするような、馬鹿みたいに純粋な「子供」で「悪魔」だった。
けれど悪魔、などと言うより、ひどく人間の子供に似ていると、俺は思う。
どんな悪魔にも持っていないその無邪気さーー悪く言えば無知だがーーを振り撒いて次々と悪魔たちを虜にしていく姿は、少なからず青焔魔の血を継いでいるのだろうか。
まあ、燐の甘やかされように文句等を言っていた悪魔たちが、その笑顔をみてオチた瞬間は、見ていてかなり楽しいが。


それはさておき、俺は今久々に苛ついている。
今なら俺でも国ひとつくらいなら亡べられそうだ。
そうもなる。俺にとってかけがえのない存在である燐が、ある悪魔たちに襲われかけたのなら、尚更。
ーーある悪魔たちというのは、青焔魔や八候王に反逆を企てた奴らだ。
しかも、強姦という手で、実行したとなると腹がたつどころではない。八つ裂きにしてやりたい。
これには青焔魔も八候王もたいへんご立腹で、本当にご立腹で(大事だから二回)今にも全悪魔を根絶やしにする勢いでまじ怖い、って言っても俺もそうなんだが。
というか、本当にしそうだ。
今回のことは、一人で虚無界を散歩をしていた燐に上級悪魔三人が仕掛けたことらしい。
詳しいことはまだよく聞いていない。
毎回毎回、燐に対して過保護な青焔魔が、八候王の内一人を必ず護衛として連れていけ、と言っていたというのに、今回に限って、八候王全員が執務やら物質界遠征やらで居なかったというのだ。
それを狙ってきたんだろうなあ、と主の自室の窓から一人呆けて窓の外を眺める。
現在、俺は燐の護衛中だ。
城内だからといって安心できない。
今は静かに眠っているが、心身的なショックと疲労困憊でかなり参っているようだ。
燐の使い魔であるクロが、頻りに燐の頬を舐めている。
あ、なんか起きそう?

「……ぅ……く、ろ?」
(! よる! りんが! りんがおきた!)
「わかってるって、ほら、大声出すな体に響くから。……大丈夫か?燐」
「ーーよる? ……夜!久しぶり、」
「ん、あーもう無理すんなって」

数回瞬きをして、完全に眠りから覚めた燐が俺の姿を確認すると、無理に体を起こして両腕を広げて、ハグするよう促してきた。
会う回数が少ないからか、この行動は珍しいことじゃない。
断る理由もないから、優しくハグをしてやると、まるで猫のようにスリスリと甘えてきた。
ちなみに本物の猫っぽいクロは、露になった燐の太股の上で丸まって気持よさそうにゴロゴロと鳴いている。そこ変われ。

「燐、体は大丈夫か?」
「んん」

俺の肩に顔を擦りつけていた燐が、曖昧に返事を返す。
多分うん、という意味だろう。

「なあ、なんで護衛連れていかなかったんだ?あんなに言われてたのに。八候王が居なかったんなら、その辺の上級悪魔とか、」
「連れてったよ」
「え」

ーー燐の話によるとこうらしい。
最近上級悪魔に格上げになった悪魔二人が、ぜひ護衛につかせて下さい、と言ってきたので、別段断る理由なんてないし、と言って連れていった。
しかし、「最近」上級に格上げになったのだ。元は中級。
襲ってきた悪魔は、言わずもがな生まれたその時から「上級」悪魔だったため、その護衛が燐を守れる筈もなく。
圧倒的力の前に敗れ、無惨に殺された、と。

ちなみに、燐が押し倒されて、本当にギリギリのところを助け出したのは腐の王アスタロトだった。
襲ってきた悪魔の内一人は見るも無惨に殺したが、残りは逃がしてしまったと聞いた。
今は八候王のほとんどが残り二人を追っている。

「護衛の、二人がな。最期まで、俺を守ってくれたんだ」
「……ああ」
「でな? 俺、なんか怖くなって、炎出すのもしなくて、腰抜けて立てなくなって。逃げて、って言われたのに、逃げられなかった」
「ああ」
「そんな俺を見たあいつらが、護衛の一人の目玉を、えぐりとったんだ。それでも、その目を取られた方の悪魔は、ずっと俺を背において逃げなかった」
「、ああ」
「そしたら、それがあいつらにとって気に入らなかったのか、そいつの首を、あいつらが切り落とした。もう一人の護衛も、逃げなくて、俺を守って必死に抵抗したら、「この男は己の力量も知らぬような馬鹿だ!貴様も同じならば、お前もこのような姿にしてやる!」って、言って、」
「もういいよ、燐」


だんだん途切れに言葉を紡ぎ出す燐に、できるだけ優しく頭を撫でてやる。
きっとこいつには、酷なことだったんだろう。
目の前で「自分を」守ろうとした仲間が死んだ。
その事実は燐にとってあまりに残酷で。
思い出しながら言っていたのか、燐の青い瞳の目尻には涙がたまっている。

「燐、」

燐がうつむき気味だった顔を上げた。
涙で潤んだ表面が灯りで美しく反射する。ああ、綺麗な青だ。

「復讐するか?」

言うと、燐は俺の前髪を静かにかきあげて、空いた額にキスをした。
これは昔からやっている、燐のおねだりの仕方だ。

「わかった、



ーー皆殺し、だな。仰せのままに、若君」


まあ、大きな犠牲を出すときのおねだりの仕方だけれど。













「っち、流石に上級二人はキツかったな……っと!」

武器である刀を鞘に収めながら、静かに周りを見渡す。
元々壊れかけていた建物はとうに塵になってどこかへ飛んで、まるで荒れ地だ。
足元には、元は人型だったはずのそれが、今はただの肉片になって転がっている。
この肉片はあとでくっついて元の人型に戻ってしまうため、青焔魔の所へ持っていって燃やしてもらおう。
……当然、元に戻ったところを八候王さえ青冷める拷問にあうのだろうけど。
肉片を適当に袋に詰めて一段落つくと、濁った空の色が変わった。見上げる。
青いような黒いような、ほの暗い空が一面を覆っていた。

「まるで俺と燐だな」

似ているようで似ていない青と黒。
交わることのない青と黒。
さっきキスをされた位置に手を添え、空いている手で、たいして吸えもしない煙草に火をつけた。
ふう、と煙を吐き出す。
物質界でいう夜明けの空が、異様に暗くなった気がした。
……とりあえず帰ったら、燐の太陽のように輝く、満天の笑顔を拝ませてもらおう。




後日、心身ともに回復した燐が、城内の中庭で使い魔のクロと地の王のべヒモスと戯れているのを発見した。
平和で元気で明るくて、良いかぎりだ。
あのあと、燐をおそった悪魔はどうなったて?
そんなの、知ったことか。
煮られようが焼かれようが斬られようが、そんなこといちいち気にしてる場合じゃない。
何故なら、今の俺の生活は、燐を中心に回っているのだから。

どうやら、燐は悪魔向きじゃないらしいが。
だって俺にあの悪魔たちを捕まえさせたのは、自分の護衛をしていた悪魔たちの「復讐」のためだろ?
いつまでたっても優しすぎて、悪魔だなんて言えやしないだろう。


久々の更新となります。サイトの方には大分まえに作品ただしてたのに今更という…ね! ネタ提供みゃーちゃんありがとう!愛してる!!
▼夜さんの煙草吸う姿を想像してしまったがために書いた。あと仰せのままにっていわせてみたかったんだ。まじで。 ▼夜さんの口調まじわからん。 ▼反省もしていないし後悔もしていない!(ドヤッ

(2012.09.23)
back


[TOP]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -