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第2球

日曜日、俺と遼ちゃんは青道高校に行くために朝から電車に揺られていた。

「ほら…ついたぞ」

電車で完全に酔った俺は、遼ちゃんに支えられるようにして青道高校に到着した。

「とりあえず酔い覚ませ」

「……」

遼ちゃんに言われた通り校門をくぐる前に水を飲んだりして酔いを覚ます。ようやく校門をくぐると目の前にやたらとでかい校舎が見えた。

「でかっ」

「俺も最初は吃驚したよ」

驚く俺に遼ちゃんがニコリと笑いかけた。そして「校舎入ってみるか」と言って校舎に向かって歩き始める。それを見て慌てて遼ちゃんの前に回り込んだ。

「それよりグラウンド行きたいんだけど。野球部練習してるだろうし校舎よりそっちの方が断然興味ある」

「お前なあ…。そう言うと思ったけど、校舎だって結構重要なんだぞ?」

「見た感じ綺麗だし大丈夫だって。俺にとってはグラウンドの方が重要だから」

そう言うと遼ちゃんは呆れたように溜息をついた。「校舎にも興味示せよなぁ」とかぶつぶつ文句を言いながらもグラウンドに連れて来てくれるところが遼ちゃんらしいけど。

「うわ…2つもある」

「名門だからな。じゃあ俺監督に挨拶してくるから1人で見学してて」

「えっ、ちょ…待っ…」

遼ちゃんは俺の言葉を無視してどんどん離れていく。こんな見知らぬ場所に1人にしないで欲しい。

そんな俺の思いは届かず遼ちゃんの姿は完全に見えなくなってしまった。…仕方ない。突っ立ってても時間の無駄だし練習見せて貰おうかな。

「おしこぉーい!」

グラウンドに近付くにつれて打撃音が大きくなってくる。フェンス越しに見学っていうのもつまんないし、せっかく来たんだからグラウンドの中入っちゃおう。

「コラァ、ピッチャー!何じゃその腑抜けた球は!俺をなめてんのか?!」

どっちのグラウンドに入ろうか悩んでいると、他の音を掻き消す程の大声が左のグラウンドから聞こえて来た。

「(なんだ今の声…)」

その声が気になったので左のグラウンドに入る事に決めた。一礼してグラウンドに入り声のする方に向かう。声の主は大分大柄な選手だった。

「やる気がねーなら田舎に帰れ、このドアホ!テメーぐらいの投手ならウチにはゴロゴロいるんだからよ!」

「やる気はあります…」

「だったらさっさと投げーや!」

怒鳴り声が止んだかと思うと次の瞬間には一際大きい打撃音が響き、ボールが遥か彼方に飛んで行くのが見えた。

「かぁ〜全然手応えあらへん!こっちまでヘタになってまうわ!お前もうええ!」

「…え」

「代われ代われ!誰かそいつつまみだせ!ダンボールにつめて田舎に送り返したれや!」

「…はぁ」

思わず溜息を吐いた。名門って上手いやつは何言っても許されんのかな。こんな酷いこと言ってんのに誰も何も言わないなんて絶対におかしい。俺がもっと気が強かったらここでガツンと言ってやれるのに。

「んだよ…それ…。あんな体でプロ行くって!?マジでありえねぇ。絶対止めた方がいいって!見てみろよあのハラ!オッサンじゃねーか!」

「ちょっ」

「どう見ても40過ぎだろ!本当に高校生かよ!」

「バカ…声が大き…」

「…ははっ」

俺が文句を言えずにいると、同じように見学に来ていた中学生が大声でそう言ってくれた。最早ただの悪口になっていたけど的を射ていて面白い。

「へえ…。そこで笑うってことはお前もそういう風に思ってたってことか」

「!」

いつの間にか隣に人が居て、しかも当たり前のように話しかけて来るから吃驚して思わず後退ってしまった。さっきまで誰も居なかったのに。こいつ一体誰なんだ。

「はっはっは!そんな警戒すんなって。別に笑ったことを責めてるわけじゃねえよ」

「あの…何か」

「お前見学に来た中学生だろ?そこじゃ見にくいだろうしもっと中入れよ」

眼鏡の先輩はニッと笑って俺を中に招いてくれた。この人結構良い人じゃん。

「てゆーかお前…男だよな?」

「…は?俺が女に見えます?」

「見える見える!お前すっげー女顔だし遠目からじゃどっちかわかんねーぜ?」

「な…!ちょっと待て!俺のどこが女顔なんだよ!」

思わぬ発言にムキになった俺は敬語も忘れて先輩に食ってかかった。

「はっはっは!まあそうムキになるなって。良いじゃん。男女共にモテて」

「〜〜〜!」

前言撤回!この眼鏡、全然良いやつなんかじゃねえ!




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