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第26球

「1年たったらテメェ卒業してんじゃねぇか!そんなに俺が嫌いかぁ〜〜」

最近沢村の様子がおかしいような気がする。いつもおかしいだろと言ってしまえばそれまでだけど、いつにも増して奇行が多い。今も何やら叫びながらグラウンドを走っているし何かあったんだろうか。

「おーい栄純君!」

もし悩んでるんだったら相談に乗ろうと思ったけど春市もいるし大丈夫そうだな。うん、俺は一足先に戻るとするか。

「やっとみつけた」

「お、降谷。どうした?」

「監督が呼んでたよ」

「監督が?なんで?」

「わかんない。……あ、やっぱわかるかも」

「どっちだよ!」

「これ」

降谷は持っていた袋をガサガサと漁って18と書かれた背番号を俺に見せた。

「おっ、おおお!お前背番号貰ったのか!おめでとう!」

「うん。ありがと」

「…もしかして俺が呼び出されたのも背番号渡すためか?」

「多分そうだと思う」

そういえば俺も一応1軍だしな。伊佐敷先輩には怒鳴られてばっかりだけど。………まさか早速1軍下ろされるわけじゃねーよな?

「監督のとこ行ってみる。わざわざ呼びに来てくれてありがとな」

「うん」

少し緊張しながら監督のところに向かった…のだが、全然見つからない。監督って普段どこにいんの。ベンチにも食堂にも居ないしまさか風呂?いやいや、どんだけ早風呂だよ。

「誰か探してんの?」

キョロキョロしながら歩いていると眼鏡に声を掛けられた。

「監督の居場所知りませんか?呼び出されてるんですけど見つかんなくて」

「心当たりあるわ。案内してやろーか?」

「お願いします」

先輩のお陰で迷うことなく監督の部屋に辿り着くことが出来た。困った時は先輩に頼るのが1番だな。例えそれが性悪眼鏡だとしても。

先輩に礼を言ってから部屋の中に入ると、監督は腕を組んだ状態で椅子に座っていた。俺を見るとすぐに立ち上がって、背番号らしき物を手渡す。

「明後日の関東大会、どこかで必ずお前を出すつもりでいる。心の準備をしっかりしておけよ。この間みたいに寸前になってトイレに行くなんてことがないようにな」

「わ、わかりました!頑張ります!失礼します」

背番号をもらえた嬉しさを噛み締めながら部屋から出ると、別れたはずの先輩が近くの壁に凭れかかっていた。

「待っててくれたんすか?」

「慰めてやろうと思ってな」

「……はあ!?」

1軍下ろされることを前提に待ってたのかよ!確かに俺も最初はそうかと思ってたけど!失礼な先輩に貰ったばかりの背番号を見せつけてやる。

「あれっ、お前背番号貰えたの?」

「貰えましたよ!明後日の試合、俺もベンチ座りますから」

「マスコットとして?」

「選手としてに決まってんだろーが!マスコットになった覚えはないしこれからなるつもりもない!」

「はっはっは!冗談だって。そんなに怒んなよ」

「………」

ヘラヘラ笑っている眼鏡を思い切りぶん殴りたい衝動に駆られたが、必死に耐えた自分を誉めてやりたい。とにかく明後日の関東大会がデビュー戦になるわけだし頑張らないとな。




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