雨模様 | ナノ
第43話

懐かしい小屋の前で一息つく。ここが私が暮らしていた場所。そっと扉を開いて中を伺うと、そこは私が出て行った時と全く同じ状態だった。一歩踏み入れるだけで舞いあがる埃。当たり前のことだけど掃除はされていない。

挨拶をする前に少しだけ片付けよう。その間に義父に会った時のシミュレーションをしよう。そう考えて箒を手に取るのと同時に義父の気配が濃くなった。

「!…お前、」

「…お久しぶり、です…」

振り向けば義父がいる。…大丈夫、怖くない。自分に諭しながらゆっくり後ろを向いた。

震えそうになる足を後ろ手に持った箒で軽く叩く。左右に泳ぐ視線を合わせようとしたが、できなかった。サングラスをかけておくべきだった。後悔したが、今更遅い。

「生きてたのか」

「ハンターに、なりました」

「金は?」

「…ありま、せん…」

そう言うと義父の目つきが変わった。

虐待を受けていたわけではない。ただ此処に隔離されて、家族扱いされていなかっただけ。それなのに、どうして私はこの人のことが怖くて堪らないのだろう。

「で、も、これから、稼いできます」

「ハンター証を売ればいいだけの話じゃないのか」

「…稼げるお金の、…総量は…これを売らずに持ってた方が…高い…から」

俯くとつむじに義父の視線が刺さる。怖い。ハンター試験で浴びたどの視線よりも、どの殺気よりも、この人の目が、言葉が、ただただ怖い。

「都合のいいことばかり言って、此処を離れたら戻ってこないつもりだろう」

「っ、ち、が…」

「ハンター証を出せ」

「や、」

腕を掴まれ、恐怖で全身の皮膚が粟立つ。

義父は体を鍛えるということをしないから、振り払おうと思えば簡単に振り払えるはずだ。だけど全く体が動かない。どうしよう、なんとかしなきゃ…

「……キル…ア…?」

半泣きになりながらも必死に頭を働かせる。感覚を研ぎ澄ませていると、ほんの僅かにキルアの気配と殺気を感じた。

まさか、着いてきてるんじゃ…色々と思考を巡らせていたが、父の行動で頭が完全に真っ白になった。

「…はっ、男でもできたか?」

「……男…?」

「そういえばお前、あいつに似てきたな。…少しは楽しめるか」

義父の顔がどんどん近づいてくる。避けないと、何かをされることはわかっているのに中々身体が言うことを聞いてくれない。

身体を引き寄せられ、頭に腕が回って来る。動け動け!!脳に必死に命令して、なんとか顔を横に背けると、頬に柔らかい何かがあたった。

「避けるな」

「…っ、いた、」

前髪を掴まれて、顔を固定される。今の何、怖い、気持ち悪い。猛烈な吐き気に襲われて膝から崩れそうになる。

いっぱいいっぱいになって気を失いそうになったが、ふと義父に向けられた強い殺気を感じ、反射的に義父を突き飛ばし、迫ってくる何かを身体で受け止めた。




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