日常 | ナノ
63日目(土曜日)

今日はいつかの大食いお兄さんがお店に来店してきた。それくらいしか書くことないから細かく書いておこう。

お兄さんは前回に引き続き傘を差したまま店内に入って来ようとしていたが今回は隣にいた同じような大きな傘を持った渋いおじさまが寸前で止めたため未遂に終わった。思わぬ常識人の登場にホッとする。

「細かいなーあぶとは。すぐ帰るし差しっぱでも良いだろ」と不満気に唇を尖らせるお兄さん。ていうかそんなに傘閉じるの面倒?代わりにやろうか?という言葉は飲み込んで「いらっしゃいませ」とだけ発する。そういえばこの人、前回来たときは店の商品を食べ放題と勘違いしてたっけ。普段はコンビニとか行かないのだろうか。王子かよ。よしここでは彼を王子と呼ぼう。隣のおじさまは従者かな?

王子は少しキョロキョロしたあと商品を整理していた私を見つけると「おっいたいた」と笑顔で近づいてきた。しかし私と目が合うとゆっくり首を傾げ従者に向かって「あれ?あの時の店員ってこの子だっけ?」と尋ねる。「お前さんは助けてもらった人の顔すらも覚えてらんねーのか」と呆れる従者の顔には明らかに疲労の色が浮かんでいて、なんというか…この王子と二人で行動する大変さを想像すると心底同情する。王子のこと何も知らないけど。

「うーん、多分こんな顔だったと思うんだけど…」と困り顔で私を眺める王子。なんだか厄介ごとに巻き込まれそうなのでだんまりを決めていると「ねえ、この前俺に食べ物くれたのって君だっけ?」と更に声をかけられる。この店私以外に女性はいないし嘘をついたことがばれると更に面倒なことになりそうだったから肯定しておいた。

「あってたみたい」と笑みを深める王子に対して従者は「先日はうちの団長が迷惑かけて悪かったな。どっか壊されたりしなかったか?」となんとも不穏なワードを出してくる。「俺だって流石にこんなとこで暴れたりしないよ」「お前さんならやりかねねーだろ」「強い相手がいたらね。でもあのときはこの子に食料もらっただけだから」と不穏な会話を続ける二人に痺れを切らした私は「あの私に何かご用が?」と問いかけた。

「あ、そうだった。一応あのときの礼をしなきゃと思ってきたんだ。この界隈ではギリと…人情?だっけ?そんなものが大事だっていうからさ」とよくわかっていなそうな顔で笑う王子。あまり仕事中に話していると怒られてしまうので「あんまり覚えてないのでお気遣いなく」と頭を下げてレジに向かうと後ろで「クールな嬢ちゃんだな」と隣の従者が呆れたように笑う声が聞こえた。

これで終わるかと思ったが意外と頑固な王子は客がいないのをいいことにレジまでついてきて「ここの商品全部買って帰ろっか?」と首を傾げる。断ると「んーお礼って難しいネ…」としょげてしまってなんだか逆に申し訳なくなってきた。策が尽きたのかついには「あ、身体で払おうか?」ととんでもないことを言ってくる王子。「あの…自分を大切に…」王子なんだから簡単に身売りしたらいけない。そのあと「それもダメなの?」「本当大丈夫なんで」「…ん、わかった」というやり取りを経て、最終的には「じゃー特別サービス。おねーさんが今後危険な目に遭ってたら、一回だけ無条件で助けてあげる」ということに落ち着いた。

危険な目になんて遭わないしそもそもこの王子と再度会う機会があるかどうかもわからないけど一応「心強いです」と返しておいた。帰り際に従者が「悪いな。頑固なんだ」と言いながら紙切れをレジに置いていった。ゴミかと思って茫然としているとそれを見通していたのか「団長の連絡先だ。ゴミじゃない」と言いながら去っていく従者。後ろ手にひらひら手を振る姿が素敵だった。あー久々に沢山書いて疲れたな。明日は休みか。そういえば日記休まず書いてるのに一度もご褒美買ってなかったっけ。買いに行こう。




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