日常 | ナノ

団子屋での邂逅

(本編48話の番外編です)


「うーん、爆音鳴り止まないね。テロか何かかもしれないから今日は店を閉めようか。君たちは早く家に帰りなさい」

一体うちの店長に何があったのだろうか。いつになくテキパキと閉店準備を整え、まだおやつ刻だというのにお店を畳んでしまった。

コンビニは基本年中無休だ。それなのにこの自由さ。幾らフランチャイズとはいえ売り上げとか上司との関係とかその辺大丈夫なんだろうか。一応尋ねてみると、店長は「みんなの安全の方が大事だからね」と笑った。驚いて思わず中島君の方を見ると、彼もまた信じられないと言った様子で口を大きく開けていた。信じ難いが、今日の仕事はこれでおしまいのようだ。帰ろう。

「店長最近機転きくよなー。ゴキブリの件の時も急に店閉めてくれたし。俺、店長有能説を提唱するわ」

「私は店長何かに取り憑かれてる説を提唱するよ」

「真顔で何言ってんの??!俺幽霊ダメだからやめて!!!」

中島君と話している最中も爆音が鳴り止むことはなかった。確かに近くで事件が起きているのかもしれないけど、此処で働くうちに爆音に慣れてしまっていて危機感が湧かない。そんなことよりお腹が空いた…と言えてしまうレベルだ。

結局家まで我慢できなくて、中島君と別れてから1人で茶屋に入り団子を注文してしまった。早く帰ってほしいという店長の願いを無下にしたのは申し訳ないと思っている。

「美味そうなもん食ってんな」

軒下の椅子に座って無心で醤油団子を食べていると、少しだけ聞き覚えのある声が降ってくる。見上げれば隊服に身を包んだ沖田が立っていた。

「隣失礼」と返事も待たずに座る沖田。眉間に皺を寄せて拒絶を示したがどうやら効果はなかったようで、平然と「あ、姉ちゃん、みたらし3本と醤油2本。勘定はこいつと一緒で」と私を指差した。いやいやいやマジかお前図々しいにも程があるぞ。

「どうして私が貴方の分まで…!」

「残念ながら一文無しなんでね。あ、どもども。じゃ、ゴチになりやす」

「いや奢らなってもう食べてるし…!何で食べてるんですか意味がわからない…」

「別に良いだろィ。あんたの代わりにチャイナ娘と眼鏡君に恩は売っときやしたから。団子代はそれでチャラってことで」

運ばれてきた団子を頬張りながらよくわからないことを話す沖田。チャイナ娘って神楽ちゃんのことだよね?眼鏡君は新八君か?そもそも恩って何?

そんなことをぐるぐると考えている間に、沖田は団子を一本食べ終えてしまった。すぐさま二本目に手をつけ始める。その姿を見ていたらなんだかどうでもよくなってきた。

「もう好きなだけ食べたらいいですよ…」

「まあ今日はこのくらいで勘弁してやらァ」

「その返しはどう考えてもおかしい…!!」

こっちが下手に出ればすぐこうだ。この人といると自分のペースが狂う。こんな事になるくらいなら真っ直ぐ家に帰っておけばよかった。

特に喋ることもないのでお互い無言で団子を食べていると、突然沖田が脈略のない質問を投げてくる。

「あんたいつもあんな無意味なことしてんのか?」

「?…何を指すのかよく分かりませんが、ここで貴方に団子を奢るのは無意味だなと思います」

「言うじゃねーか」

沖田はもっもっと団子を頬張りながら、ふと空を見上げた。釣られて私も上を見る。遠くの方で上がる煙を見て「凄い煙」と呟くと「さっきそこの工場で一悶着あったんでね」と返答を得る。

「…物騒な世の中ですね」

「だからこそ、恩は売れる時に売っとけ。特にあんたみたいに自分の身も自分で守れない女子供はな。匿名の親切なんてするもんじゃねーや」

その言葉で先の「無意味なこと」が匿名での酢昆布の差し入れを指すのだと察する。同時に置き手紙の執筆者も。

「…あの手紙を書いたのって沖田、あ、間違えた。貴方だったんですか?」

「お前頭ん中で俺のこと呼び捨てにしてたな」

「何のことでしょう?」

人が嫌がる姿を見て楽しむ最低人間という認識しかなかった人の思いもよらない行動に動揺して、ついつい思ったことをそのまま口に出してしまった。

「どうして手紙なんか…」

「暇潰しの一貫でやっただけで他意はねーよ」

一切こちらを見ずに再び団子を頬張る沖田。暇潰しに万事屋まで足を運んで、メモを取り出して、私の名前を書いて置いてったってこと?…何のために?

「ま、匿名の親切なんて所詮ただの自己満。次からは玄関前なんかじゃなくて直接渡しに行くことをオススメするぜ」

「…貴方のそれも匿名の親切なんじゃないんですか?」

「は?」

ぽかんとこちらを見遣る沖田。なんだその間抜け面初めて見るな。

「だってここで偶然出会ってこの話題にならなかったら、私多分手紙を書いてくれたのが貴方だってことに気付けなかったですよ。完全に匿名の親切じゃないですか」

「……暇潰しだって言っただろ」

沖田は気まずそうに目を逸らす。否定しないということは、本当に私を想っての行動だったようだ。どういう形であれ私の事を想ってしてくれた事に対する謝礼はしなければならない。

団子の追加注文を促すと沖田は「そのお人好し、いつか身を滅ぼしそうだな」と笑った。それ少し前に別の人にも言われたな。揃いも揃って失礼な人ばっかりだ。でも少し見直した。沖田は案外悪い奴じゃないのかもしれない。

「んじゃお言葉に甘えて。おーい良い子のみんなーこの姉ちゃんが好きなだけ団子奢ってくれるってよー」

「は?!…あ、ちょっと用事思い出したので帰ります」

とんでもない事を棒読みで言い始めた沖田に青ざめつつ、冷静に対処しなければと脳をフル回転させる。結果、お金を置いてそそくさと店を後にする事にした。

さよなら沖田。そして出来るなら二度と会いたくない。やっぱりこいつ、ただの嫌なやつだわ。


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