日常 | ナノ
常連の理由
(フリリクありがとうございました)


近所のコンビニに勤める夕崎さんとは、ジャンプの話題を通して顔を合わせれば世間話をする仲になった。意外と顔が広く、俺と知り合う前から神楽が随分世話になっていたらしい。

悪い子じゃねーけど少し変わった子で、毎日自分史?日記?を書いているとか。自分史なァ…書いたらエッセイみたいな感じで売れっかな。したら、その金でパチンコにでも…とこんな理由で試しに書いてみているが全く進まねえ。

「アンタ何してんすか…」

「見りゃ分かんだろ小説書いてんだよ。…アレ?日記だっけ?まあとにかく今執筆中だから。話しかけんなって神楽にも言っとけ」

「ますます何してんだァァ!!小説だか日記だか知らないけど、んなもん書いてないで仕事の1つでも貰ってきてくださいよ!!アンタ今月も俺たちの給料未払」

「あーあーあーヤベェなこれ、急に何も聞こえなくなっちまった、銀さんちょっと医者行ってくるわ。店番よろしくな」

ギャーギャーうるさい新八を無視して小銭を持って外に出る。今日は月曜日、ジャンプの発売日だ。

今まではテキトーな店を選んで買ってたけど、最近は近所のコンビニで買うようにしている。自動ドアが開くと、今日も夕崎さんが淡々とレジをこなしていた。流石ほぼ毎日いるだけあって新人の筈なのに異常に仕事が早い。

さ、ジャンプジャンプ。目当ての棚に目を移すと、おそらくそれのために作っていたであろうスペースに目当ての品は既にない。…え、まじ?売り切れ?嘘だろ?嘘だろォォォォ?!誰か嘘だって言ってお願い!!!

「いらっしゃいませ」

「…ああ、夕崎さん」

抑揚のない夕崎さんの声がいつもより虚しく響く。振り返れば彼女は陳列棚の前に立ち尽くす俺を怪訝そうに見ていた。

「今週の…もう売り切れちまったんだな…」

「そうですね。さっき最後のが売れました」

「はあぁぁ…他探すか……」

肩を落としてトボトボと出口に向かう。

「坂田さん、ちょっと」

「ん?……えっ?」

いつの間にかレジにいた夕崎さんに手招きされてそちらに向かうと、レジの上に今週のジャンプが載っていた。

「え??!ええええ?!おまっ、これ!!」

思わず大声を上げると、夕崎さんが珍しく慌てながら「注目浴びたらまずいんで…!お静かに…!」と奥の様子をうかがう。あーそうか、こーゆーの店長に知られるとまずいのか。

「…坂田さん買いに来るかなと思って取り置きしておいたんですよ」

「なんつーハイレベルな接客…」

「常連さんですしね。けど店長にこういうのバレたら怒られるんで言わないでくださいよ」

夕崎さんが店長に聞こえないようにレジから身を乗り出し小声で囁く。

おいおいおい、こんな事ぐらいではしゃいでんじゃねーぞ俺の心臓。どんだけ親切に慣れてねーんだよちょろすぎだろ。

「気遣わせちまって悪かったな。有り難く貰ってくぜ」

「はい。今週もおまけのカードみたいなのついてるんで10円高いですけど大丈夫ですよね」

「えっ」

「………」

俺の表情から全てを悟ってくれた夕崎さんは、ポケットから10円を取り出して黙ってレジの中へ入れた。

この町に長く暮らしていると、こういう小さな優しさがやけに沁みる。この店に通いたくなる1つの理由だ。今度ギンタさんのカードでも差し入れしてやるか。

「ありがとうございました」

「おーまた来るわー」

ーーで、なんだっけ?自分史?あーもーめんどくせーからやめやめ。帰ってジャンプ読も。


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