Pray | ナノ
6回裏の先頭打者は4番キャプテン結城。うちの怪物はバカでアホでどうしようもないやつだけど、相手側の怪物は背中で語る、漢って感じのやつなんだな。まずはこいつを打ち取って流れを

〈は…入ったああ!!ふ、再び2点差ああ!追い上げムードの薬師を突き放す主砲の1発!〉

ーーうん、やっぱ怪物って規格外だわ。

打球は外野の頭を軽々越えて外の茂みの中に埋もれていった。

横目で真田先輩を伺うと額に大量の汗が滲んでいる。疲れが溜まって少し甘めに入ってしまったのかもしれない。

「いや〜やっぱ強ぇわ…」

真田先輩が、息を吐きながら振り返る。

「これからもっと迷惑かけると思うけど…そん時はカンベンっス!」

にっと笑った真田先輩に落ち込んでる様子はない。一発食らうって投手にとってはかなりメンタルにくるはずなのに、この人は腐りもしないしイラついたりもしないんだよな。

「全然大丈夫っスよ真田先輩!迷惑かけてください!!」

「あ…お前には言われたくねえ!」

「なんで?!」

点なんて幾らでも取り返せる。大事なのは打たれたことよりも打たれた後にどう立て直すかだ。この人は打たれても折れないからほんとすげえ。

「先輩超かっけーっす!尊敬してます!」

「打たれたのに!?お前って雷市よりも考えてることわかんねぇよな」

「ええ!?褒めてるだけなんすけど!」

それからも先輩は粘り強いピッチングを続け1点も取れられることなく6回裏を終えた。とはいえ球数としては決して少なくない。ここは攻撃を長引かせて少しでも先輩を休ませてあげたいけど…

「(あー…もう交代か…)」

あの川上とかいう投手、結構器用に投げるんだな。点が取れそうで取れなくてもどかしい。ネクストサークルで出番を待っていたけど寸前でチェンジになってしまった。

「足大丈夫っすか」

「ん、絶好調!」

春先に傷めたふくらはぎはまだ完治していないはずだ。俺たちの前じゃこうして頼もしいこと言ってくれるけど、痛みだってきっとある。話しかければこうして笑顔を向けてくれるものの、息が荒い。

7回が始まって早々に1点取られてしまう。この人もそろそろ限界だ。チームのために常に全力で投げてくれるこの人に、俺も何かしたい。壮絶な乱打戦の上で勝ちたいとか守備も長引けばいいとか本気で思ってたさっきまでの俺、本当自己中だな。攻撃は長く、守備は短く。試合に出られるのが嬉しすぎてこんな当たり前のことも抜けてたのか。

「っ、(やべ、ちっと甘…)」

二遊間を抜けるような痛烈な当たり。腕をいっぱいに伸ばして思い切り飛び込む。入れ、入れ!!

<と、捕ったーー!!>

アナウンスと共に、わああぁと歓声が上がる。

土煙が消えて、グローブから白球が顔を覗かせた。掌がじんじんと痛む。やべえ、捕れてんじゃん!

「っしゃああ!!」

「はは、お前激アツじゃねぇか!」

「スゲェ!!!渚やっぱかっけえ!」

「渚ーー!よくやったァ!!!」

7回を終えて、3点差。次の先頭打者は俺だし。その次は雷市だし。何とでもなる。普段雷市と一緒にバカやって、めんどくさいことは全部この人に押し付けてるからな。今度は点をとって、この人に楽させてやるんだ。

後輩の恩返し
(真田先輩のために!)
(サナーダ先輩のために!)
((なんだかんだ可愛い後輩だよなぁ))






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