宮姉原作沿い
※今公開されている原作沿いのボツになった方のお話です。
「なまえちゃん!」
「姉ちゃん!」
ランドセルをその辺に放り投げて、バレーボールを片手にサムとお姉ちゃんの部屋へダッシュ。
「「一緒にバレーしよ!」」
部屋に飛び込むなり、声を揃えた俺らに振り返ったなまえちゃんはきょとんと目を丸くしていた。
「ごめんね、お姉ちゃん宿題が途中やから行けないんよ」
「おおん…」
「宿題…」
ほんまにごめんね、と眉尻を下げて謝るなまえちゃんを俺らは当然責めることなどできなくて、結局バレーはサムと二人でやることになった。
「行ってらっしゃい、怪我に気をつけてね」と優しく見送ってくれるなまえちゃんにこくんと頷いて、「次は一緒にやろ!」「絶対一緒にやろ!」と手を振って部屋を出た。
でも、あれから数年経ってもなまえちゃんが俺らと一緒にバレーをやることは一度も無かった。
いつも何かしら出来ない理由があって、なんとなくなまえちゃんはバレーをやることを避けているようにも思えた。
「なまえちゃん、バレー嫌いなんかな…?」
「んー…でも俺らの試合は観に来てくれるし、嫌いっちゅうよりも、自分がやるのが苦手なんちゃう?姉ちゃん、体育あんまし得意じゃない言うてたし…」
「あー…なるほどなぁ。じゃあ、マネージャーとかどうやろ?」
「マネージャー?バレー部の?」
「おん。なまえちゃんバレーのルールわかっとるし、俺らのことよう見ててくれるし、あと優しくて可愛いやん」
「最後の二つは思っきしお前の好みやけど、まあわかるわ。姉ちゃんは優しくて可愛い」
うんうんと頷くサムに俺も得意気になって、せやろ?と笑った。
「俺な、どうしてもなまえちゃんと一緒にバレーやりたいねん。マネージャーでもなんでもええから、一緒におんなじ景色を見てたい」
大好きな人やから、いつだって俺らの一番近くにおって欲しい
嬉しいも楽しいも、一緒に味わいたい
最高の景色をお姉ちゃんに見せてあげたいねん
「姉ちゃんがマネージャーか。それ、ええな」
「せやろ!早速なまえちゃんにお話や!」
そう意気込んで、俺はサムと一緒になまえちゃんの部屋へ向かったわけだが…
「ごめんね、バイト始めちゃったから部活に入るのはちょっと厳しいんよ」
見事に撃沈だった。
「おおん…」
「バイト…」
「誘ってくれたのに、ほんまにごめんね」
眉尻を下げて謝るなまえちゃんを、やっぱり俺らは責めることなどできなかった。
なんとかバイトを辞めることはできないかと話してみたが、それもただなまえちゃんを困らせるだけだった。
でも、諦めきれへん…
ここで諦めてもうたら、もう一生俺はなまえちゃんとバレーできへん…
「なまえちゃん、あのな…今度の春高、俺とサムはまだ一年やけどスタメンで出ることになってんねん」
ラグの上に正座して、真剣に話し出した俺の目をなまえちゃんは真っ直ぐに見つめてくれていた。
俺は自分の太ももの上で拳を作る。
「なまえちゃんのために死ぬ気で戦って、てっぺん取るから。せやから、春高で優勝したらバレー部のマネージャーやってほしい」
「ツムくん…」
「姉ちゃん、わがまま言うてもうてほんまにごめん。でも俺からもお願いや、姉ちゃんの時間を俺らにください」
「サムくんまで…」
二人して正座で頭を深々と下げた。
なまえちゃんの顔は見えないが、たぶん困り果てた顔をしているに違いない。
ほんまにわがままな弟でごめんな…
しばしの沈黙。
なまえちゃんからの返事が怖くて、思わずぎゅっと目を閉じた。
「…うん、わかった」
「!?えっ、それって…!」
「ツムくんとサムくんが一番をとったら、お姉ちゃんはバイトを辞めてバレー部のマネージャーをやります」
「!ほ、ほんまにっ…?」
勢いよく顔を上げると、なまえちゃんはいつもの優しい笑顔で俺らの前に小指を出していた。
「うん、約束ね」
その言葉に俺とサムも笑顔になって、なまえちゃんの白くて細い小指にそれぞれの小指を絡めたのだった。