001/優しいけど怖いあなたが苦手です



「みょうじさん、一緒に帰ろうよ」

また、来た。
隣のクラスからわざわざ足を運んでやって来た彼をおずおずと見上げれば、狐みたいな細い目と目が合う。
バレー部の角名倫太郎くん。
わたしはこの男の子のことが苦手だ…。
だって、何を考えてるのかよくわからない…。

「まぁた角名はみょうじにちょっかいかけとんのかい。ほんまお前の趣味ようわからんわ」
「そう言う侑だっていつもみょうじさんいじめてちょっかいかけてるじゃん。でも好きな子いじめて気を引かせようなんて小学生と変わんないよね」
「なっ…!そ、そんなんちゃうわ!なんで俺がみょうじを好きになんねん!好きなのはお前やろ!」
「そうだよ、俺は好きでみょうじさんにこうして声をかけてる。だから侑、俺の邪魔しないでよ」

きっぱりとそう言った角名くんに目を見開いた侑くんはすぐにくしゃっと顔を歪めると「勝手に仲良うやってろ!」と吐き捨てて、同じクラスの銀島くんを強引に引っ張って教室を出て行ってしまった。
教室の外には宮治くんもいたようで「角名は?」「知らんわあんなやつ!」「はあ?何にキレとんねん」って双子の会話がここまで聞こえてくる。

わたしは廊下に向けた視線を自分の机の上に置いてあるスクールバッグへと戻すと、傍らに立っている角名くんの顔をちらりと再び見上げた。
あの侑くんを怒らせても平然としてる角名くんはすごいと思う。
中学の頃から侑くんに目をつけられていじめられてるわたしにはとてもじゃないけどそんな態度はとれない。
怖くてすぐ謝っちゃうもん…。

「うるさいのはいなくなったことだし、俺らも帰ろうか」

こちらの視線に気づいた角名くんがわたしを見おろして、優しい口調で穏やかな微笑みを浮かべる。
普通の女の子ならきゅんってなるのかもしれないけど、わたしは角名くんのそれが怖くて、強ばった表情で曖昧に頷くのがやっとだった。

角名くんは今日みたいにバレー部の練習がお休みの時は「一緒に帰ろう」って必ずわたしを誘いにやって来る。
最初はなんでわたしなんだろうって不思議でたまらなくて、周りの女の子の目も痛かったから、申し訳ないけど角名くんの誘いを丁重にお断りしたんだ…。
でもその時に「なんで?他に帰るやつでもいるの?それ誰?まさか男じゃないよね?」って温度のない表情ですごい詰められて、それが本当に怖くて怖くて、それ以来わたしは角名くんの誘いを断ってない…。

「せっかくだし、どこか寄り道してく?」
「えっ…よ、寄り道は、あの…」
「このあとは家に帰るだけなんでしょ?なら時間あるよね?心配しなくても明るいうちにちゃんと帰すから」

確かにこのあとの予定はなくて角名くんの言う通り家に帰るだけだったけど、わたしの気持ちとしては早く帰りたかった。
侑くんとは違うタイプの怖さが角名くんにはあるから、わたしは苦手な角名くんとも本当なら距離を置きたいと思ってる…。
でも角名くんは断るすきなんてくれなくて、結局学校帰りにタピオカジュースを一緒に飲んで、買うわけでもないのに服屋さんや雑貨屋さんを見てまわったりした。
飲んだことがなかったタピオカは意外とおいしかったし、服も雑貨もわたしの好きな系統のお店ばっかりだったから、見てるだけでも楽しかった。
そう、楽しかったんだ…。
苦手な角名くんと一緒だったのに…。

「みょうじさんの家、あそこに見えてる白いマンションでしょ?俺は駅前まで戻んないといけないから、今日はここでバイバイだね」
「あ、うん…ありがとう、角名くん…」
「ありがとうって何が?」
「えっと…楽しかった、から…」

いつも侑くんにいじめられてるせいか、わたしの周りにはあんまり人が寄ってこなくて、こんなこと自分で言うのも悲しいけど、わたしには友達がいない。
だから今日みたいに放課後ぷらっと寄り道するのとか、実はちょっと憧れたりもしてて、いつか仲の良い友達がわたしにもできたらしてみたいなって思ってたことだった。
相手は友達じゃなくて、隣のクラスの何を考えてるのかよくわからない角名くんだったけど…。

わたしがぽそりとお礼を言ったら、角名くんは少しだけ目を丸くしたのちに「俺も楽しかったよ、ありがとう」って目を細めて笑ってくれた。
それから「またね、みょうじさん」って軽く片手をあげて帰っていく角名くんのちょっと猫背な後ろ姿をぼんやり見つめながら、あれ…?と首を傾げる。
わたし、角名くんにこのあたりに住んでることは話したかもしれないけど、マンションに住んでるって教えたんだっけ…?
もしかして、侑くんから聞いたのかな…なんて考えながら、この日はわたしも帰宅したのだった。




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