001/きみの前ではうまく話せないんだ



2年になって奇跡的に同じクラスで隣の席になったみょうじなまえちゃん。
入学当初からの憧れの女の子であり、俺の心のエンジェル。

「お、おはようっ、なまえちゃん…!」

朝練を終えて教室に入ると、俺の目はいつもなまえちゃんの姿を真っ先に見つける。
部室で制汗スプレーぶっかけてきたし、自分が汗臭くないことを再度確認してから、ひとつ深呼吸してなまえちゃんに朝の挨拶をした。
スマホの画面を見とった視線が持ち上げられて、なまえちゃんが俺の顔を見る。
ほんで、瞳を柔らかく細めて「侑くん、おはよう」って微笑み返してくれはった。
それだけで俺は天にものぼるような気持ちになって、心の中で「今日もなまえちゃんがかわええ…」と合掌しながら自席についた。

「あれ、侑くん良い匂いするね」
「えっ、ほ、ほんまっ?実は制汗スプレー新しいのに変えてなっ…」
「そうだったんだ、柑橘系だけど柔らかいのが良いね。わたしこの匂い好きだなぁ」

す、好きぃっ…!?
憧れの女の子からの突然の「好き」。
そのご褒美ボイスに俺はプシュウと頭から煙が出そうやった。
女性受けが良いのはこの辺ですよって教えてくれはった店員さんほんまにありがとう。
もうこれからはずっとこの制汗スプレー使う。
香水もこれに近いの探そ。

それから朝のHRを終えて、一時間目の授業がはじまってからも俺はチラチラと隣のなまえちゃんに気をとられとった。
黒板の文字をノートに書き写しとるなまえちゃんを盗み見ては、横顔もかわええなぁと思う。
髪を耳にかける仕草が好き、のぞいた白い耳も好き。
俺はなまえちゃんのことこんなに好きなんやけど、今のところこの気持ちを本人に伝える予定はあらへん。
てか、伝えたくても緊張してもうて無理やねん…!
なまえちゃんと目を合わすのも照れてもうてあかんし、話しかけるのやっていつも勇気振り絞ってやっとできとんねん。
いつもの持ち前のコミュ力はどうしたって俺やって思う。
俺いつからこんなシャイボーイキャラになったん。

そうして授業の内容もろくに入ってこないまま、なまえちゃんに見惚れてぼんやりしとると、ふとこっちを見たなまえちゃんとぱちりと目が合ってもうて心臓がドキィッ!と音を立てた。
やば、見すぎた、どないしよう…。
な、なんて言い訳するん俺…。

「侑くん、わからないところでもあった?」
「えっ…」

こそっと小声で話しかけてきたなまえちゃんは俺が授業中にガン見してたことを少しもおかしく思わなかったようで、むしろ俺が授業についていけずに困っているととらえたらしい。
しかも、わからないところを教えてくれようとしているらしい。
なんて心が綺麗で純粋なんやろ。
やっぱりなまえちゃんは天使、俺の目には羽が見える。

「こ、ここんとこ、ようわからんくて…」

適当に教科書のページを指さした俺、なんなら授業の冒頭からわからへんレベルやったけど、それはさすがに言えへんかった。
「あ、ここはひとつ前のページの説明がわかりやすくて…」と俺の教科書に手を伸ばしてそっとページをめくってくれはったなまえちゃんの白くて綺麗な手。
俺にしか聞こえへんように囁く声とか、時おり俺の顔を見て話してくれはるその目にも、俺の心臓はむっちゃドキドキしてまう。

「あとここね、次のテストに出るみたいだよ」
「そ、そうなん…?忘れんうちにメモっとこ…」

すかさずシャーペンで教科書に「ここテストでる!」と書き込んだ俺。
顔を上げるとなまえちゃんと目が合ってもうて、ぶわっと恥ずかしくなった俺は顔を赤くして視線をそらした。

「他は大丈夫そう?」
「おん…あ、ありがとう、なまえちゃん…」
「いいえ、どういたしまして」

にこりと笑ってまた黒板に向き直ったなまえちゃんにホッと一息つく。
ドキドキしすぎて俺の心臓の音が周りに聞こえてまうかと思った…。
なまえちゃんが触れた教科書のページを手でそっと撫でては、だらしなくにやけてしまいそうになる口もとを手の甲でおさえて必死に隠した。




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