01

※双子の1個上のいとこのお姉ちゃん設定
※お姉ちゃんだけど気弱でちょっとネガティブな女の子



いつもより少し遅めの朝。
オカンが用意しておいてくれた朝飯を口の中にかっこんで、弁当とスポーツバッグを手に玄関を急ぐ。

「サム!はよせんと置いてくで!」
「ちょお待てや!お前なんでこういう時ばっか早いん!?」

いつも全然起きへんくせに腹立つわぁ、と朝から軽くキレとるサムが俺のあとを追ってくる。
靴を履いて外に出ると、やわらかい風が頬を撫でた。
寒くも暑くもない、ちょうどええ気温。
春やなぁって感じや。

「なまえちゃん家におるよな?」
「この時間ならまだおるやろ」

サムと一緒に近所に住んでるいとこのなまえちゃんの家に向かう。
なまえちゃんは俺らの一個上のお姉ちゃんで、同じ稲荷崎高校に通う生徒だ。
家の前に着いてインターホンを押すと、少ししてからなまえちゃんのオカンが顔を出した。

「あら、侑くんに治くんじゃない。おはよう」
「おざっス。おばちゃん、なまえちゃんおります?」
「一緒に学校行こう思て迎えきたんやけど」
「まあ、そうだったのね。ちょっと待ってて、今あの子呼んでくるから」

にこりと笑ったおばちゃんが「なまえー?侑くんと治くん来てくれたわよー」と言いながら一度中に引っ込んだ。
なまえちゃんのオカンは物腰柔らかな人だ。
標準語やし、いつも穏やかで落ち着いている。
うちのオカンとは全然ちゃうよなぁとかサムと話していると、中からなまえちゃんの声が聞こえてきた。

「お母さん、どうしようっ…前髪、変じゃない…?」
「もう、変じゃないって何回も言ってるでしょう。ちゃんと可愛いから、早く靴履きなさい」
「ほ、ほんとに…?ほんとにそう思ってる…?」

そんなやり取りの後に、不安がっているなまえちゃんの背中を押し出したおばちゃんが俺とサムの顔を見て「ごめんね、この子ったら遅くて」と頭を下げた。
いやいや、急に来たのはこっちやし…と俺らも頭を下げる。
そして顔を上げた時に、ぱちりとなまえちゃんと目が合った。

「なまえちゃん、おはようさん。前髪切ったん?かわええなぁ」
「ほんまや、前髪いつもより短いのかわええな」
「えっ、あ…これは、その…」

かぁっと途端にほっぺを赤くしたなまえちゃんが前髪を手で撫でつけながら、ありがとうって小さく呟いた。
照れて俺らの顔を見れずにいるなまえちゃんの反応が可愛いすぎてしんどい。
朝からええもん見させてもろたわ。

「きょ、今日は朝練は…?」
「始業式やから朝練は休みやで」
「せやから、今日は一緒に学校行こうや」

ほんまはいつも一緒に行きたいぐらいなんやけど、さすがに朝練あると時間合わんから、こういう時ぐらいしかなまえちゃんとは一緒に登校できへん。
ただでさえ学年の壁に邪魔をされている毎日なのだから、たまにのチャンスは逃さんようにしとかんとあかんのや。

「侑くん、治くん。うちの娘をよろしくお願いしますね」
「任しといてください。ほな、なまえちゃん行こかー」
「足もと段差あるから気ぃつけてな」
「私の方がお姉ちゃんなのに…」

背中におばちゃんからの行ってらっしゃいを受けながら、なまえちゃんを間に挟んで最寄りのバス停に向かって歩き出す俺ら。
でもその途中で急になまえちゃんが「あっ」と言って立ち止まった。
俺とサムもつられて足を止める。

「どないしたん?忘れもん?」
「ううん、そうじゃないんだけど…まだ言ってなかったなぁって思って…」
「言うてないって何を?」

首を傾げる俺らをなまえちゃんが見上げて、そして春みたいにふわりと笑った。

「侑くん、治くん。2年生おめでとう」

それを言われて、俺らも「あっ」と声を揃えた。

「「なまえちゃんも3年生おめでとう!」」

春。
はじまりの季節。




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