軽快にバッドジョーク飛ばして



「あの、北さん…」
「ほんまにすんませんっした…」
「別にええよ」

俺とツムは今、肩身の狭い思いをしながら北さんの前で正座をしている。
「もうすぐ姉ちゃんが迎えに来るやろ、茶でも飲んで待っとき」とちゃぶ台の上に出された煎餅と麦茶。
いつもなら喜んで手を伸ばすところだが、状況がアレなだけにそれもはばかられている。

なぜならここは北さんの家で、俺とツムは初めて中にお邪魔させていただいているからだ。
そしてこんなことになった経緯であるが、これがまたとてつもなくしょうもなかった。

「お前がカブトムシ捕まえたいとか言い出したからやぞ…!」
「お前だってノリノリやったやろうが…!」

北さんが席を外した隙に小声でお互いにどつきあう。
そう、俺らはカブトムシを捕まえに近場の山に来ていたのだ。
だが夢中で探している内に帰り道がわからなくなってしまい、危うく遭難しかけていたところをたまたま山菜採りに来ていた北さんに救われたのだ。

まさかこの辺に北さんの家があるなんて知らんかったわ…





「北くんほんまにありがとう。弟がお世話になりました」

しばらくして北家に菓子折を持ってやって来た姉ちゃんは北さんに深々と頭を下げていた。
俺とツムも罪悪感を胸に一緒になって頭を下げる。

山で迷子になった時点で焦って姉ちゃんに連絡していたから、姉ちゃんも俺らのことをさぞかし心配していたのだろう。
北さんに保護された旨を伝えれば、すぐに行くと言って迎えに来てくれたぐらいなのだから。

「虫採りもええけど、慣れてへん人間が山に入るのは危険やから安易に行ったらあかんで。あの辺はオオスズメバチもおるんや」
「い゛っ…!?」
「ま、マジっすか…」

オオスズメバチと言ったら森の魔王と恐れられる凶暴凶悪な蜂だ。
テレビでしか見たことがないが、あんなのが生息している場所に自分達が居たのかと思うとサアッと血の気が引く。

「宮さん、ここまで暑かったやろ。スイカ冷やしてあるから食べて涼んでいき」
「えっ、でも長居したらお家の人にご迷惑になっちゃうから…」
「いま俺一人やねん。ばあちゃんも出掛けとるから気にせんでええでよ。お前らも食うてくやろ?」
「スイカ!」
「食います!」
「も、もう二人とも…」
「ほな決まりやな」

スイカを取りに奥へと姿を消した北さんは少しだけ微笑んでいるように見えた。





「甘ッ!」
「うまッ!」

北家で出されたスイカはスーパーで買うものとは比べ物にならないぐらい甘くて瑞々しくてうまかった。
姉ちゃんもぱあっと表情を輝かせて「おいしい」と笑っている。

「近所でスイカ作っとるおっちゃんがな、毎年夏になるとうちにもお裾分けしてくれんねん」
「こんなうまいスイカを毎年タダで…?」
「北家めっちゃええな…」
「ほんならうちの子になるか?まあ、宮さんが嫁いでくれたらの話やけど」
「「エ゛ッ!?!?」」
「なんてな、冗談や」
「「………」」

な、なんちゅう冗談言いはるんや、この人…

心臓に悪い…

姉ちゃんはそんな冗談も気にしてないのか相変わらずニコニコとスイカを食べ続けている。

「でも北くんのお家って昔ながらの日本の雰囲気があって素敵だよね。この辺りは静かで落ち着いとるし、景色も自然が多くてすごく綺麗」
「田舎なだけで、なんも無いところやけどな」
「そこが良いんだよ。夜になったら星がよく見えそう」
「宮さんは星が好きなん?」
「うん、詳しいわけじゃないけど見るのは好きなんよ」
「そうか、ほんなら今度ええところに連れて行ったるよ。この近くに星がよう見えるオススメの場所があんねん」
「わあ、ほんまに?嬉しい、ぜひご一緒させてほしいな」
「ちょ…ちょっと待ってもろてええですか?姉ちゃん、星って夜に見えるもんなんやで?」
「?うん、そうだね?」
「いやそうだね、ちゃうくて…夜やで!?なまえちゃん女の子やろ!?危ないやんか!」
「夜道は確かに危ないから帰らせられへんな。うちに泊まってくか」
「とっ…!?!?」
「北さん!?!?」
「ハハッ、なんてな」
「「!?!?」」

俺とツムにはもうどこからどこまでが北さんの冗談なのかわからなかった。



軽快にバッドジョーク飛ばして




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