たった1秒が
永遠に変わる瞬間を見よう
休日の午後。
図書館帰りの俺は小さな公園で見知った人物を見つけた。
双子の姉、宮なまえさん。
彼女のそばに双子の姿は無いようだが、こんな所に一人でどうしたのだろうか。
「宮さん」
公園に入って日陰にあるベンチに腰掛けている宮さんに声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。
丸くなった目が俺をきょとんと見ている。
「北くん、こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇やね。お散歩?」
「いや、図書館からの帰りや。宮さんはここで何しとるん?誰か人を待っとるんか?」
「ううん、ちょっと休憩してたの。今日すごく暑いからバテちゃって。もう少し休んだら、家に帰るつもり」
困ったように眉尻を下げて微笑む宮さん。
ハンカチで額に滲む汗をポンポンと拭った彼女の顔はいつもより赤い。
今日の暑さは運動部の俺でもこたえるレベルだ、このまま放っておいたら宮さんは熱中症になってしまうかもしれないと考えた俺はリュックの中から水筒を取り出した。
ばあちゃんに持って行くようにと言われて渡された昔ながらのコップタイプの水筒。
このタイプは保冷力に優れているから中身の麦茶はまだ冷たくて美味しいはずだ。
「宮さん、水分とった方がええと思う。俺ので嫌じゃなければやけど」
「えっ、そんな嫌なんてことないよ。ごめんね、気を使わせちゃって…ありがとう、いただきます」
麦茶を注いだコップを受け取ってくれた宮さんはそれに口をつけて喉を潤すと「冷たくて美味しい」と笑った。
良かったと俺も安心して、彼女の隣に腰掛ける。
「あとこれ舐めるとええよ。塩飴なんやけど、熱中症対策になんねん」
「わあ、ほんまにありがとう。北くんはお休みの日でもちゃんとしててえらいね。わたしも見習わないと」
「宮さんは十分ちゃんとしとると思うけどな」
「そんなことないよ、今日みたいにダメな時もあるし」
「俺だってあかん時はあるで」
「北くんが?それはちょっと想像できないかも」
ふふっと小さく笑う宮さんの声が耳に心地いい。
髪を耳にかける仕草、白くて綺麗な手、ワンピースから伸びる足は制服を着ている時とはまた違ったものに見える。
風がふけば夏の匂いに混じって、宮さんの甘やかな匂いもほのかに香っていた。
「あっ、この塩飴パイナップルの味がする。美味しい」
「せやろ?最近は塩飴も色んな味があんねん」
「そうなんや、今度わたしも買ってみる」
「そんなに気に入ったなら、もっとあげるわ」
片手で適当な数の塩飴をとって宮さんの両の手のひらに落とすと、彼女は驚きながらも嬉しそうに「わあ、ありがとう」と向日葵のような笑顔を見せてくれた。
「あ!なまえちゃん、やぁっと帰ってきた!」
「姉ちゃん帰ってこんからツムと探し行こうかと思ってたわ」
「ごめんね、途中でお友達と会ってお話してたら遅くなっちゃったんよ」
「ふぅん、お友達?」
「ほんまにただのお友達なん?」
「そうだよ?あ、これ塩飴なんやけどたくさんもらったから二人にもあげるね」
「塩飴?なんかこれどっかで見たことあるような気ィするんやけど…」
「俺もそんな気がしとる…」
翌日、主将の顔を見た双子は「あ゛ッ!?」と既視感の正体に気づくこととなる。
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