みんな違ってみんな良い

※小4の双子と小5のお姉ちゃん



国語の教科書にきつねが出てくる話があった。
イタズラばっかしとったきつねが人間に食べ物を持っていくようになるんやけど、きつねは人間にまたイタズラに来たんやと思われて銃で撃たれてまう話や。

「あの人間ほんまアホやわ、むっちゃ腹立つ」

家に帰っておやつのドーナツを食いながら、教科書に出てきたきつねのことを思い出して腹を立てる。
目の前に座って一緒にドーナツ食うてるサムにも「そう思うやろ?」って聞いたら、サムはドーナツをもぐもぐしながら「んー…」と微妙な反応やった。

「なんやねん、サムはムカつかんの?」
「ムカつくっちゅうより、俺は悲しい話やと思ったわ。きつねも人間も可哀想やん」

どっちも可哀想。
サムはそう思ったらしい。
そら確かに、あの話のラストはきつねが撃たれた直後に人間がきつねの行動の本当の意味を知るから、人間もやってもうたって言う後悔みたいなもんはあったと思う。
可哀想っちゃそうやけど、でもやっぱり腹立つやん。
きつねはイタズラばっかしとったかもしれへんけど、それを反省して人間に食べ物を持って来とったんやで?
ええことしてたのに、なんで銃で撃たれなあかんの?
例え全部わかったところで、もう遅いねん。

「なあ、なまえちゃんも4年生の時にきつねの話やったん?」

先にドーナツを食べ終えたなまえちゃんが俺とサムのところに牛乳をコップに入れて持って来てくれたから、俺はなまえちゃんにもきつねの話のことを聞いてみた。
そしたらなまえちゃんは「うん、やったよ」ってふわりと微笑んで俺の隣に座った。

「なまえちゃんはどう思ったん?ムカついたりせんかった?」
「姉ちゃんはツムとちゃうんやから、国語の授業なんかで腹立てるわけないやん」

なに言うてんねんって目ぇしとるサムに俺はむっと口をへの字に曲げる。
サムになんか言い返そうとしたんやけど、なまえちゃんが俺の頭をよしよしって撫でてくれたから、俺はサムよりもなまえちゃんの顔を見上げた。
「お姉ちゃんはね」って口を開きはじめたなまえちゃんにうんうん頷いて、その続きを待つ。

「あのきつねさんは、嬉しかったんじゃないかなって思ったんよ」
「えっ…?」

返ってきた意外な答えに俺は目をまんまるくした。
ほんで正直に言うと混乱した。
嬉しいって、なんでなん…?

「きつねは銃で撃たれてもうたのに…?」
「うん。でもね、ちゃんときつねさんはわかってもらえたでしょう?」
「それは、そうやけど…」
「これがもし誤解されたまま終わっちゃったら、わたしもツムくんみたいに怒ったかもしれないし、サムくんみたいに悲しいなって感じたかもしれない」

でも、ちゃんと本当のことをわかってもらえたから。
だからあのきつねは怒りとか悲しみを人間に抱いたんやくて、ただ嬉しかったんやないかって、なまえちゃんはそう思ったらしい。
なまえちゃんのことやし、間違っとることは言うてへんと思うんやけど、でもたまになまえちゃんのこういう考えは俺やサムには難しくてようわからん。

「ふふ、ふたりともようわからんって顔をしとるね」

困惑しとる俺らを見てくすくす笑うなまえちゃん。
なまえちゃんは俺らと1才しか違わんのに、ちっちゃい頃からずっと一緒におるのに、俺らの中にはないもんがなまえちゃんの中にはある。
俺らとなまえちゃんじゃ何が違うんやろうか?
もしそれがわかったら、俺も…。

「…俺もなまえちゃんみたくなれるんかな」
「わたしみたいに?」
「ツムには絶対無理やで」
「なんでやねん!サムのアホ!」
「ほら、そういうとこがもう無理やん」

根本から否定してくるサムのやつがほんまにムカつく。
でもここでキレたらサムの言うた通りやから我慢や。
俺もなまえちゃんみたく、にこって…にこって…。
ぐっ、無理や…!顔ひきつるわ…!

「ツムくんにはツムくんのいいところがいっぱいあるんやから、無理してお姉ちゃんみたいにならなくてもいいんだよ?」
「えっ…!俺のいいところ、いっぱいもあるん…!?」
「うん、いっぱいも。お姉ちゃんはね、そのままのツムくんが大好きだよ」
「ほんま!?俺も!俺もなまえちゃん大好きやで!」
「ツムばっかずるい!姉ちゃん、俺は!?」
「ふふ、サムくんのことも大好きだよ。サムくんもいいところいっぱいやもんね」
「おん!俺も姉ちゃん大好きや!」

このあと、なまえちゃんのいいところもいっぱいやでってことを伝えるのにサムと「こんぐらい…!」「もっと、こんぐらい…!」って2人して両手むっちゃ広げてみせた。
なまえちゃんは嬉しそうに笑っとった。




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