しょうがないけど大事なやつ

※中2の双子と中3のお姉ちゃん



「俺からなまえちゃんとんなや!」

ツムとケンカした。
俺らのケンカなんてしょっちゅうやけど、今回のはいつもとちょっと様子が違った。

「ふざけんなや!姉ちゃんはお前のだけやないやろ!」
「はあ!?俺のやし!だいたいな、お前には友達がおるんやからそっちいけや!」
「ああ!?意味わからんわ!なんで友達が出てくんねん!それ今関係ないやろ!」

中学に入ってから、ツムは今まで以上に姉ちゃんにべったりになっとった。
学校と部活以外の時間はほぼほぼ姉ちゃんと一緒におる。
ほんで俺が姉ちゃんを少しでも独占しようもんなら、すかさずキレてくんねん。
俺の姉ちゃんでもあるのに、なんでこいつにばっかとられなあかんのや。

「サムはええんやん」
「何がや」
「俺にはなまえちゃんしかおらんのに…」
「はあ?ツム、お前何言うて…」
「クソサム!もうお前の顔なんて見たない!こっから出てけや!」

部屋から俺を追い出して、中から鍵をかけて閉じこもったツムにますます腹が立った。
お前だけの部屋やないのに何しとんねん。
俺やってお前の顔なんかもう見たないわ。

しゃあないからリビングに行くと、ソファーに座っとった姉ちゃんと目が合った。
姉ちゃんが「またツムくんとケンカしちゃったん?」って困った顔で微笑んでソファーの空いとるスペースをぽんぽんって手で軽くたたく。

「悪いのはツムやし…」

姉ちゃんの隣に行って、俺はソファーの上に膝を抱えて座った。
そっと距離を詰めてきた姉ちゃんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
それだけでちょっと気持ちが落ち着いた。

ほんまはな、なんでツムが姉ちゃんにやたら執着しとるのかわかっとんねん。
ツムはあんなやから友達がおらん、それが理由や。
人格がポンコツで気に入らんことがあると平気で人を傷つける言葉吐きよるし、特に部活でバレーやっとる時なんかはヘマした仲間に対してのあたりがほんまにひどい。
そんなやつが周りに好かれるわけがなくて、気づいたらツムはよう1人でおるようになっとった。
せやから、人格ポンコツ野郎のツムには姉ちゃんぐらいしかそばにおってくれる人なんておらんねん。
ほんでツム自身もそれがわかっとるから、俺に唯一の姉ちゃんをとられたなくて必死になんねん。

「俺、ツムみたいにはなりたない。人に優しく生きるって決めたんや。なあ、姉ちゃん。俺は間違ってへんやろ?」
「そうやね、人に優しくしようって思うことはとっても良いことだよ」
「せやろ?それなのに、なんで俺ばっか我慢せなあかんの?俺やって姉ちゃんと一緒におりたい時もあんのに、いっつもツムが姉ちゃん独占しよる」

俺がふてくされてそう言うたら、姉ちゃんは眉を八の字に下げた。
あかん、困らせてしもた。
はっとなって姉ちゃんに謝ろうと思ったんやけど、それよりも先に俺は姉ちゃんに抱き寄せられて、気づいたら姉ちゃんの胸に顔がくっついとった。
むにゅっと頬にあたる柔らかい感触にどきんとする。

「ごめんね、サムくんにはいっぱい我慢させちゃったね」
「ね、姉ちゃんが謝ることやないっ…悪いのはツムで…!」

あったかい胸の膨らみにドキドキしとる俺を抱きしめる姉ちゃんの腕にきゅっとまた力がこもった。
姉ちゃんの胸にあたっとる顔の部分が幸せやと感じると同時に、そのぬくもりとええ匂いにじわじわと安心が広がって、なぜか少しだけ泣きたくなった。

「ツムくんは思ったことなんでもストレートに言うてしまう子やし、サムくんも言われて嫌だなって思うこと何回もあったと思う」

俺の後頭部を撫でながら「でもね」って言葉を区切った姉ちゃん。
俺がそっと視線を持ち上げたら、優しい顔しとる姉ちゃんと目が合った。

「ツムくんのこと、1人にしないであげてほしいんよ」
「俺がツムと一緒におったらええの…?」
「うん、だって2人は双子の兄弟やもん。周りの子がツムくんを1人にしても、サムくんだけはそばにおってあげてね。もちろん、嫌なこと言わたら我慢せずに怒っていいんよ?お姉ちゃんもツムくんのこと叱ってあげる」

にこって笑った姉ちゃんがツムを叱ってもあんま怖くないような気もしたんやけど、でもツムのことやから他の誰かに言われるよりも姉ちゃんに言われる方がずっと胸にずしんってくるもんがあるやろうなって思った。
姉ちゃんに叱られて狼狽えるツムの姿を想像したらちょっとおもろくて、俺は思わずわろてしもた。

「ん。しゃあないから、ツムのそばにおったるわ」
「ありがとう、サムくん。ところでツムくんはお部屋に閉じこもっとるん?」
「おん、アナ雪のエルサみたくなっとる」
「ふふ、じゃあ一緒に呼びにいこっか」

雪だるま作ろうってね。
そう言うて俺の手を引いて立ち上がった姉ちゃんに俺も笑って頷いた。




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