アホなぐらいお姉ちゃんが好き

※小2の双子と小3のお姉ちゃん



あつむは好ききらいが多い。
好ききらいっちゅうか、食わずきらいってやつ。
食うまえからこれはまずいもんって思いこんどる。
そんなあつむをおれはアホやなぁって思う。

「これうめぼしやん、おれきらいや」

オカンがひるに作っといてくれたおにぎり。
なかみごとにわけられとる皿に「うめ」「しゃけ」「おかか」のメモがあって、それを見たあつむがうげってかおをした。
ほんで、しゃけとおかかのおにぎりばっか食いはじめたから、おれもむかついた。

「うめぼしも食えや」
「おさむが食えばええやん、おれはしゃけとおかか食うから」
「アホ、おれもしゃけとおかか食いたいねん」

おれとあつむがうめぼしのおにぎりの皿をおしつけあっとると、ねえちゃんがその皿をひょいってとって「ケンカしたらあかんよ」ってやんわり言う。
オカンならキッてこわいかおしておこるんやろうけど、ねえちゃんはいつもにこにこしとんねん。
「おねえちゃんのあげるからね」って、おれとあつむのところにしゃけとおかかのおにぎりをくれる、そんなやさしいねえちゃんがおれもあつむも大好きやった。

「なまえちゃんはうめぼし好きなん?」
「うん、好きだよ。うめぼしはおいしいだけやなくてね、からだにもすごくいいってお母さん言うてたよ」
「えっ、そうなん…?うめぼしが…?」

しんじられへんってかおしたあつむが、うめぼしのおにぎりをちらちら見とる。
これは気になっとるやつ、ちょっと食うてみたいなって思っとるやつ。
あつむはいつもそうやねん。
あつむはねえちゃんの食うてるもんがほしくなんねん。

「あつむくんもうめぼし食べる?」
「ええの…?」
「うん。はい、あーんして」

にこりと笑ったねえちゃんに、ぱっとあつむも笑って「あーん」とでっかい口をあけた。
ひとくちでおにぎりのはんぶんぐらい食うて、ほっぺいっぱいにしとるあつむはハムスターみたいや。
そんなあつむをねえちゃんは、やっぱりにこにこしながら見とる。

「おいし?」
「んっ!んふぁいっ!」

うまいって言うたんやと思うけど、口いっぱいやからぜんぜんしゃべれてへんの。
さっきまでうめぼしきらい言うてたのに、おれの方があつむよりまえからうめぼし食えてんのに、ねえちゃんに「食べれたね、えらいね」って、ええこええこされとるあつむがむかつく。
あつむばっかずるい、おれやってええこやもん。

「ねえちゃん、おれもうめぼし」
「おさむくんも食べたいん?」
「ん、あーんてしてや」

ねえちゃんのよこに行って、あーってあつむに負けへんぐらいにでっかく口をあける。
そんなおれを見て、やさしく笑ったねえちゃんが「おさむくんも、あーん」っておにぎりをくれた。
おれもハムスターみたいに口いっぱいにしておにぎり食うてたら、ねえちゃんがおれのほっぺについたごはんつぶをとってくれて、ほんであたまもなでなでしてくれた。
うれしくて、きゅうんってなる。

「おさむずるい!なまえちゃん、おれのごはんつぶもとってや!」
「あ!あつむのあれ、わざとつけたでねえちゃん!」
「わざとちゃう!食うてたらついたんや!」
「きゅうにめっちゃへたくそな食い方しとるやん!そういうのがわざとって言うんや!」
「あつむくんもおさむくんも、ケンカしてたらおねえちゃんおにぎりぜんぶ食べちゃうよ?」

ケンカするおれとあつむのまんなかで、おにぎりをはむっと食べたねえちゃんは口のなかのごはんをもぐもぐしながら「ん、おいしい」ってしあわせなかおしとった。
そんなねえちゃんのかお見たら、おれもはらへる。
あつむなんてゆびくわえて、ねえちゃんのかお見とる。

「なまえちゃんのおにぎりむっちゃおいしそうや…。なあなあ、なまえちゃんおにぎりはんぶんこして。おれもそれ食いたい」
「あつむはねえちゃんの食いたいだけやん」

皿にあるやつやなくて、ねえちゃんが食うてるやつばっかほしがるあつむはいっつもそうなんや。
ねえちゃんのもんはなんでもええもんに見えとって、きらいなもんでもねえちゃんのなら好きになる。
ほんまアホやなぁって思う。
でもな、ねえちゃんがメシ食うてるときのしあわせのかおで、ごはんおかわりできてまうおれもアホなんやと思うわ。




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