家庭菜園を教えてくれたのは



俺となまえ姉で暮らしてるアパートは日当たりの良い場所に位置している。
洗濯物を外干しするのにベランダの日当たり条件も必須だとなまえ姉は言っていて、それとその他の条件を含めて考慮した結果、今の物件が選ばれた。
実家では大型の乾燥機があったからあんまり気にしてなかったけど、それが無い環境となると確かに日当たり条件は大事なことだったと実感する。
雨の日とか梅雨の時期はしょうがないから、近場のコインランドリーに行くか、部屋干しで我慢してるけどね。

そんな日当たり条件の良いうちのベランダだけど、ここは洗濯物を干す以外にも活躍してる場所でもある。
それは何かって言うと…

「倫くん見て、元気にいっぱい育ったよ」
「ほんとだ、すごいじゃん。なまえ姉、育てるのはじめてって言ってなかった?」
「うん、はじめて。枯れちゃわないか心配だったけど、これならちゃんと食べれそうだね」
「え、これ食えるの?」
「そうだよ、これベビーリーフだもん」

ベビーリーフ、発芽30日以内の若葉の総称。
これから大きく成長しようとするための栄養をたくさん含んでいる上に柔らかくて食べやすいんだとか。
先月、ホームセンターで種やらプランターを買ってきたなまえ姉がベランダで水やりと間引きをしながらせっせと世話をしていたのは、どうやらそのベビーリーフと呼ばれる葉であったらしい。

「どうやって食べるの?サラダとか?」
「そうだね、サラダにしようかな。生ハムと玉ねぎをマリネにして、一緒に食べたらおいしいと思う」
「ああ、それいいね。絶対うまいやつ」

頭の中でマリネのサラダを想像して、思わずぺろりと舌なめずり。
なまえ姉が育てたものをなまえ姉が料理して俺に食わせてくれる。
これがうまくないわけないじゃん。
例えただのサラダだとしても、俺にとっては絶品なことに違いないんだよ。

それから夕飯の支度をするなまえ姉の手伝いをして、今日は時間があったから一緒にハンバーグも作った。
明日の弁当のおかずにもきっとこのハンバーグは入るんだろうなって思うとちょっとテンションが上がる。
そりゃ俺だって普通の男子高校生だし、ハンバーグ嫌いなやつとかいないでしょ。

「うまっ」

待望の夕飯の時間。
ハンバーグはもちろんうまいんだけど、それよりも生ハムマリネとベビーリーフのサラダが想像よりもずっとうまかったからちょっとびっくりした。
マリネの味がしっかりついてるからドレッシングなんてなくてもおいしく食べられる。
若い内に摘んだ葉はクセのない甘い味わいで、残さずに綺麗に平らげることができた。
そんな俺の食いっぷりになまえ姉も嬉しそうにしてる。

「あのね、次はミニトマトにチャレンジしてみようと思うの」
「へえ、ミニトマト。いいね、俺も好き」
「おいしい実がいっぱいとれたらいいよね」
「なまえ姉なら大丈夫だよ」
「ふふ、ありがとう。ちゃんと育ったら、その時にはまた倫くんに食べてもらいたいな」
「もちろん。楽しみにしてる」

そう返事をすれば、また嬉しそうに笑うなまえ姉に俺もつい表情筋をゆるめた。
今日もなまえ姉が可愛いなって、一緒に過ごすこの時間の幸せを噛み締めた矢先のことだった。

「そう言えば、なまえ姉はなんで家で野菜を作ろうと思ったの?節約のため?」
「それもあるけど、やろうと思ったのはお友達の話を聞いて興味が出たからなの」
「友達?それってクラスメイト?」
「ううん、今は違うんだけど1年生の頃に同じクラスになったことがあってね。ほら、バレー部の北くんだよ。倫くんも知ってるでしょう?」
「………え、北さん?」
「そう、北くんっておうちに畑があるから野菜の育て方にも詳しくてね、未経験者のわたしにもわかるように丁寧に教えてくれたの。ベビーリーフとミニトマトは初心者向けやでって教えてくれたのも北くんで…」
「ちょっと待った、なまえ姉って北さんとそんな仲良かったっけ…?」
「仲良くなったのは最近かな。今年になって委員会が一緒になったから、よく話すようになったの」
「あ、そうなんだ…」

双子にばっかり警戒してたからこっちは油断してた…。
しかも北さんとか、一番心配要素薄いと思ってたんですけど…?
にこにこと悪気の無い笑顔で「それで北くんがね」と尚も北さんの話を続けるなまえ姉に俺は相づちをうちながらも内心気が気じゃなくて、話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。




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