最高の景色をあなたに見せたい



部活のミーティングの時やった。
黒須監督が急に「せや、お前らに見せたいもんがあるんやった」言うて、俺らの前にばさっと一枚のポスターを広げて見せてくれはった。
それは全国制覇を目指す稲荷崎高校男子バレーボール部の応援ポスターで、IHとか春高が近くなってくると学校内や商店街なんかにも貼られるようになるもんや。
いつもは試合中の写真とか(双子のアイドルばりの写真もあったな…)をポスターサイズに引き伸ばして文字入れ編集とかしながら作られとるんやけど、今回はそうやなかった。

「へー、今回のは写真やなくて絵なんすね」
「ええなこれ、むっちゃセンスあるやん」

こういうの水彩画っちゅうんやろうか。
繊細な濃淡で表現されとるその絵は、稲荷崎の黒いユニフォームを着とる2人の選手がコートに入っていく後ろ姿を描いとる。
繊細なのに選手の後ろ姿からは芯の通った強さみたいなもんを感じられて、今までのポスターの傾向と全然ちゃうってのもあって、俺らの目には新鮮なものとして映った。

「この背番号、侑と治のじゃん。これ描いた人、双子のファンなのかな」
「こんなん描きはる俺らのファンってどんな人なんやろうなぁ」
「んー、せやなぁ」
「なんや、双子はこれ見て気づかへんのか?」

意外やなって顔をしはった黒須監督に双子が目をぱちくりさせて首を傾げる。
俺ら他のバレー部も意味がようわからんくて互いに顔を見合わせた。

「この絵を描いたのは宮姉や」
「………え?」
「………は?」
「せやから、お前らの姉ちゃんやっちゅうねん」

黒須監督の言葉を聞いた直後、体育館内に双子の驚きの声が大きく響き渡った。
いや双子だけやない、俺もびっくりしたわ…。
双子の姉ちゃんって、絵うまかったんか…。

「え、ちょっ、まじで言うてはります…!?これ描いたのなまえちゃんてっ…いや、美術好き言うてたのは知っとったけども…!」
「いつもメモとかに描いとるゆるい動物の絵しか見たことあらへんから、こんなん描きはるなんて予想外やわ…うちの姉ちゃん天才なんか…?」
「宮さんは1年の時も美術の授業でこんな感じの絵描いとったで。あの時は風景画やったけど、えらい綺麗な絵描きはる人やなって思ったわ」

北さんの話を聞いてさらに「おおん…」とたじろぐ双子。
普段あんだけ姉ちゃんのこと好き好き言うてるもんやから、自分らの知らん姉ちゃんの一面を他所からぶっこまれたことが軽くショックやったんやろうな。

「姉ちゃん、いつの間にこんなん描いてはったんや…」
「ポスター描くなら俺らにも言うてくれたらよかったのに…」
「そらしゃあないで。ポスターにさせてくれ言うたのは、この絵が描き終わったあとの話やからな」
「え、それってどういう…?」
「3年が授業で描いた水彩画を美術の先生が何枚かピックアップして美術室の前に展示しとってな、それでこの絵をたまたま俺が見つけて、絵を描いた本人にポスターの話を持ちかけたっちゅうわけや」

腕を組んでフフンと得意気に笑う黒須監督はかなりええ仕事をされはったと思う。
でもあれやな、バレー部のポスターの話が来る前にこの絵を描いたり、しかも双子の後ろ姿を描いとるあたり、やっぱりあの姉ちゃんも弟のことがほんまに好きなんやなぁって再認識した。

「この絵のタイトル、"私の一番好きな景色"言うらしいで。これだけ思われとったら、姉ちゃんに最高の景色を見せてやらなあかんよなぁ」

黒須監督にそう言われた双子は肩をふるふる震わせとった。
よう見れば、侑も治も子どもみたいにボロボロ涙流して泣いとったんや。
顔をくしゃくしゃにして、嗚咽混じりにこの場で強く全国制覇を誓う双子を見とったら、俺まで目頭が熱くなった。
なんか、こういうのってええよなぁ…。

「…あれ、銀もしかして泣いてる?」
「な、泣いてへんわ!」

慌てて目をこすって角名に首を振った俺やけど、すぐ隣で尾白さんが上を向きながら「あかん、胸に染みるわ…」と目元を片手で覆っとって、そんな尾白さんに北さんがタオルを渡しとった。




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