俺らのお姉ちゃんを見ないでよ



大会がある日やと、なまえちゃんが応援に来てくれることがある。
今日がちょうどその日で、俺とサムは試合前のウォーミングアップからバチバチに気合いを入れとった。
でかい大会ちゃうし、うちなら勝って当然みたいなレベルのしょぼい対戦校しか集まっとらんけど、なまえちゃんがおるならかっこ悪いプレーなんてするわけにはいかへん。
せやから、俺とサムは全国大会本戦さながらのど真剣の気迫で試合に出とった。

「なんや双子、えらいキレキレやな。いつもなら今日みたいな大会は新技とかやりはじめて遊びよるのに」
「ほんとそれ、練習試合みたいなもんなのに気合い入りすぎ…。手抜くとちゃんとやれって言ってくるし、北さんかよ…」

だるそうにしとる角名の愚痴が聞こえてきて、俺がじろりと睨めばすぐに顔をそらされた。
角名は面倒そうにしながらも「わかってるよ、ちゃんとやるって」と呟いとったから、ほんならまあええわと俺はネット越しに対戦相手と向き合った。
やる気の無いやつに上げるトスはあらへん、コートにおっても邪魔なだけや。
なまえちゃんの前でみっともない稲荷崎の姿なんて見せられへんやろ。

「サム!ぶち抜いたれ!」
「わかっとる!」

今日一調子のええうちのスパイカーのサムにきっちり3枚ついてきた相手のブロック。
いつもならアランくんにトスを上げる場面やけど、今のサムなら絶対に決めるよると俺はわかっとったから、完璧にサムの最高到達点に照準をあわせてセットアップした。
ブロックの上から相手コートへと容赦なく叩きつけられるスパイク、レシーバーは身動きひとつ取れずに顔をひきつらせとった。
そらそうや、全国大会出場常連の強豪校相手に本気出されたらビビるやろ。

俺とサムが点を取る度にギャラリーから黄色い声援が飛んでくる。
喧しいわボケ、なまえちゃんの声が聞こえんへんわ。
ほんで1セット目を稲荷崎が先取してコートチェンジになった時、観客席の方を見たら喧しブタ共が並ぶ端の方に座っとるなまえちゃんと目が合った。
なまえちゃんはにこりと笑って小さく手を振ってくれて、俺はそれだけで嬉しくなって隣におったサムの腕を肘でつく。

「見たかサム、なまえちゃんが俺に手ぇ振ってくれたで」
「は?俺に振ったんやし、どこ見とるん」
「はあ?お前こそ目ぇおかしいんとちゃうか。あれは絶対俺にやろ」
「いいや、俺にや」
「アホぬかせ、俺や」
「アホはお前や。姉ちゃんはさっき俺がスパイク決めた時も…」
「なあ、それいつまでやるつもりなん?ケンカするなら2セット目はベンチやで」
「「すんません」」

サムのせいで北さんに怒られたわ。
そんな俺らを横目に銀が「姉ちゃん来とるん?」と目を丸くしとって、角名が「あ、ほんとにいる」とギャラリーの方を見ながら水分補給をしとった。
宮姉はどれやと探しだす銀にアランくんが「あそこにおるのがそうやで」となまえちゃんのおる場所を教えとったけど、俺は正直ちょっと嫌やった。
なまえちゃんのことあんま見んといてほしい。

「えっ、姉ちゃんってあの人やったんか。俺、試合前に外で見かけたで。なんか他校のやつに声かけられとったけど…」
「…はっ?それどういうことやねん、なまえちゃんナンパされとったん!?」
「そういう大事なことはよ言えや!つうか、なんで俺らを呼ばなかったん!?」
「いや、俺が動く前に解決したんやって…。ちょうど北さん来はって、どちゃくそ正論パンチかまして相手のメンタルずたずたにしとったで…」
「え、北さんのあれくらったんそいつ…」
「やば、トラウマもんやん…」
「そばにおった俺までメンタル死にそうやったわ…」

北さんの恐ろしい正論パンチを思い出した俺らはぶるりと背筋を震わせた。
でもなまえちゃんをナンパしよるカスなんて極刑もんや、北さんにボコボコにされてええきみやわ。
あとで北さんにお礼言っとかなあかんなぁと思いながらドリンクを飲んどったら、急に赤木さんがどえらい情報を放り投げてきよった。

「宮さんて大人しくて目立つ方やないけど、3年内じゃ密かに人気集めとるよな。穏やかでにこにこしとって癒し系やって評判ええし」
「ああ、それうちのクラスのやつも言うとったわ」

嘘やろ、大耳さんまで言うてはる。
いやそら確かになまえちゃんはかわええけども…。
うちの姉ちゃんそんなモテるん…?
それはなんか、素直に喜べへんっちゅうか…。

「ちょっと待って、双子の顔どうしたんだよ。オッホホ、やばいウケる」
「なんとも形容しがたい顔やな…」

今の俺とサムの胸中はむっちゃ複雑で、それが盛大に顔に出とったらしい俺らの顔を見た角名は大ウケ、アランくんは苦笑いやった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -