お姉ちゃんのご飯に憧れてるから



「サムくん?」

本屋で気になっとった本を立ち読みをしとったら、不意に声をかけられてほんまにびっくりした。
え、この時間になんで姉ちゃんがこんなとこおるん…?
制服のまんまやし、学校帰りみたいやけど部活に入っとらん姉ちゃんが部活帰りの俺と遭遇するとか、そうありえへんことや。

「姉ちゃん、今日バイトやったっけ…?」
「ううん、バイトやないよ。同じクラスの子の相談を聞いとったら、遅くなっちゃって」

相談て、なんなんそのクラスのやつ。
こんな時間まで人の姉ちゃんを拘束すんなや。

「あんま遅なったら危ないて、いつも言うてるやん」
「うん、ごめんね。次からは気をつけるようにするね」

俺が注意すれば、姉ちゃんは申し訳なさそうに眉を八の字に下げて微笑んだ。
でも姉ちゃんは優しい人やから、きっとまた相談とかされたらちゃんと聞いてあげてしまうんやと思う。
その優しさは美徳やけどな、それで姉ちゃんになんかあってほしくないんや。

「今日はサムくん1人なん?」
「まあうん、そうやけど…」
「その本、おいしそうなのいっぱい載ってるんよね。何か食べたいのあるん?」
「えっ、あ…ちゃうねん、これはっ…」

姉ちゃんの視線が俺の手元にある本に移った瞬間、俺はハッとして本を閉じて、それを急いで元あった場所へ戻した。
俺が立ち読みしとったのはいわゆる料理のレシピ本で、家で作れるような家庭料理が主に載っとるやつやった。
こんなん見とるとこを人に知られたなくて、せやからツム達とわざわざ別れて俺1人で本屋に来たのに…。

「もうよかったん?」
「お、おん…時間もあれやし、はよ帰ろ…。ツムも家に姉ちゃんおらんってなったら心配するわ…」
「そっか、それもそうやね。じゃあ帰ったらお姉ちゃんの貸してあげるから、気にせず言うてね」
「えっ…?」
「実はそれと同じの持っとるんよ」
「ええっ…!そ、そうなん…?」
「うん。他にもレシピ本ならいくつか持っとるから、見たいのあれば貸してあげる」

そう言ってにこりと笑った姉ちゃんはいつも通り優しくて、俺がレシピ本を見とったことに対して少しも意外そうな顔なんてしとらんかった。
興味深そうに詮索してくる様子もなくて、あまりにも普通やからちょっとびっくりや。
もしかしたら、こんなところを見られて恥ずいと思っとる俺を気づかって、あえてそうしてくれたんやろうか…。

結局俺はなんも買わずに本屋を出たんやけど、いつの間にか外は雨がふっとって、傘を持っとらんかった俺を姉ちゃんが広げた傘の中に当たり前のように入れてくれた。
俺の方が身長がでかいから傘は俺が持つと申し出て、姉ちゃんが濡れないように気をつけながら、姉ちゃんの歩幅に合わせてゆっくり歩いた。

「姉ちゃん…」
「うん?」
「さっきの、俺がレシピ本見とったことなんやけど…変に思わんの…?」

雨の中、ぽつぽつと姉ちゃんにしか聞こえないような声量で尋ねると、姉ちゃんは不思議そうに首を傾げて俺を見上げた。

「変やなんて思わないよ。だって、サムくんが料理に興味持っとるの前から知っとったもん」
「えっ」
「わたしがご飯作ったりすると、サムくんは使ってる食材とか味付けのことをよく聞いてくるから、きっと興味があるんやろうなぁって思っとったんよ」

姉ちゃんにそう言われて、ああ確かにそうやったと気付かされた。
うまい飯を食うた時、何を使って何をしたらこんなうまいもんになるのか知りたくなる。
それは俺が自分で飯を作ってみたいと思うようになる前からあったもんやったけど、姉ちゃんはその頃からいつか俺がこうなるとわかっとったんやろか。

「俺、飯食うのは好きやけど自分で料理するのはあんまやったことないねん…。本見てもようわからんとこあるし…正直、うまく作れる気がせん…」
「みんな最初はそうだよ。お姉ちゃんやってお母さんにいっぱい聞いてたもん。レシピ見ながらやっとるのに失敗するし」
「ええっ、そうやったん?全然知らんかったわ…」
「うん、そうだよ。だから大丈夫。サムくんやって、おいしいご飯作れるよ」

すぐお姉ちゃんなんて追い抜かれちゃうかも、なんて言うて笑う姉ちゃんの横顔を見つめながら、それはありえへんやろなぁって心の中でそっと思う。
だって俺の一番はずっと姉ちゃんやから。

「姉ちゃん、ありがとう。いつか俺もうまい飯作って食わしたるから、楽しみに待っとってな」

俺にうまい飯を作って食わしてくれる大好きな姉ちゃんを、いつか俺の作った飯で笑顔にしたい。
姉ちゃんの飯みたいに、ひとくち食っただで幸せになれるような、そんな飯を俺も作るんや。

傘をぎゅっと握り直して、いつか訪れる未来に笑みを向けた。




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