双子にとっての幸福の女神様



朝の情報番組内でおまけ程度にパパッと発表される運勢ランキングほど、信じられへんもんはない。

「なあ、俺ら最下位やで」
「なにがや」
「今日の運勢。テレビ見てみ」

俺がテレビを指さすと、サムは朝飯を食いながら「ふうん」とうっすい反応を返してきよった。
そら別に俺もこんなんどうでもええと思っとるけど、でも朝から最下位とか言われるのはええ気分にはならんやん。
人の順位を勝手に決めんなやって思うし。

「侑も治もいつまで食べとんの。遅刻してもお母さん知らんからね」
「俺は食べ終わっとるで。まだ食ってんのサムや」
「もう食い終わるし。つかオカン、今日の弁当なに?」

朝飯食ったそばから弁当の中身をオカンに聞いとるサム。
なんで腹膨れとる時に昼の弁当が気になんのやろ。
サムがいつまでも飯食っとったのやって、1人でおかわりしとったからやし、朝からどんな食欲しとんねん。

「今日のお弁当作ったのお姉ちゃんなんやけど、聞いてへんの?」
「「はっ!?」」
「お姉ちゃんね、あんたらのために昨日の夜からお弁当のおかず何にするか考えてたんよ?」
「「はあっ!?」」

オカンの言葉に俺とサムは同時にガタガタッ!と立ち上がった。

「姉ちゃんが俺らの弁当を…」
「嘘やろ、全然知らんかった…」

なまえちゃんが弁当を作ってくれるのは今日がはじめてってわけやない。
でも朝練がある俺らとなまえちゃんじゃ家出る時間が全然ちゃうし、ほんまは朝早くに起こしてもらえるだけでもめっちゃありがたいことなんや。
せやから、今日みたいなことがあると胸がいっぱいになんねん。

「あれ?ツムくんもサムくんも、まだご飯食べてたんやね。時間は大丈夫?」
「なまえちゃん!」
「姉ちゃん!」
「わっ!ふたりともどうしたん?」
「俺らのためにほんまにありがとう!」
「弁当作ってくれて、ほんまのほんまにありがとう!」

制服に着替えてリビングにやって来たなまえちゃんの顔を見た俺とサムはなまえちゃんに抱きついて、なんべんもありがとうって伝えた。
やっぱりあの運勢ランキングはあてにならへんなぁって改めて思う。
朝からこんなええことが起こっとるのに、俺らのどこが最下位やっちゅうねん。

「ちょっとあんたら、ほんまに時間ええの?」
「あ?………って、ほんまにやばいやつや!サム!はよ支度せぇ!」
「わかっとる!オカン!姉ちゃんの弁当とってや!」

部屋の時計を見たら冗談抜きであかん時間で、俺とサムはバタバタと慌ただしく身支度を済ませてエナメルバッグを肩に引っかけて玄関へ急ぐ。
後ろからなまえちゃんが笑顔で俺らを見送りに来てくれた。

「いってらっしゃい。またあとで学校でね」

小さく手をふるなまえちゃんに「いってきます!」とサムと声を揃えて返事をしてから家を駆け足で飛び出した。
なんとかいつものバスには乗れて朝練には間に合ったし、練習がはじまればいつもよりも調子が良くて、今日の双子は絶好調やなってチームメイトに褒められたりした。

ほんで待ちに待った昼休み。
サムやないけど、今日はほんまにこの時間が待ち遠しくてたまらんかった。
鼻歌交じりに上機嫌に弁当の包みを解いてると、同じクラスの銀が不思議そうな顔で「大好物でも入っとるんか?」って首を傾げとった。

「はっ!これは…!」
「な、なんやどうした?」
「タコさんウインナーや!」
「は…?タコさん…?」
「タコさんウインナー知らんの?ウインナーのここんとこに切り込み入れて焼くと、タコさんみたくなるんやで」
「いや知っとるし、食うたこともあるわ」
「じゃあなんなん?その奇妙なもん見るような顔は」
「タコさんウインナーでテンション爆上げしとるお前が奇妙なんや」

俺が奇妙ってどういうことやねん、失礼すぎるやろ。
だいたいこのタコさんウインナー誰が作ったと思っとるん?
俺の姉ちゃんのなまえちゃんやぞ?
なまえちゃんがこれを朝早くに作ってくれたんやと思ったら、もう泣けるやろ。

その頃、隣のクラスで弁当の中を見たサムがタコさんウインナーを前に「姉ちゃん、ほんま愛しとる…」って手を合わせて拝んどる姿に角名がやっぱり奇妙なもんを見るような目を向けとったらしい。




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