昔も今もこれからもずっと宝物



懐かしいもんを見つけた。
クローゼットの奥の方にぽつんと落ちとった小さな巾着袋。
それはすっかりくたびれて、ぼろっちくなっとった。
でも穴とか空いてるわけちゃうし、使おうと思えばまだ使える。

「姉ちゃん、これにお菓子入れてくれへん?」

リビングで俺らのワイシャツにアイロンをかけとる姉ちゃんにあの巾着袋を見せると、姉ちゃんは目を丸くして「わあ、懐かしいね」って笑った。
もうずいぶん昔の話なんやけど、俺とツムがまだ小1ぐらいの時にオカンが巾着袋を作ったからと俺とツムと姉ちゃんにくれたことがあった。
でもそん時はこんなんもろてもどう使えばええかわからんくて、姉ちゃんは何入れるん?って聞いたんや。

「昔はこれにお菓子を入れて、遊びに行く時も持ち歩いとったんよね」

やっぱり姉ちゃんも覚えとったんやな。
あの時は家にあるチョコとか飴を巾着袋に詰める姉ちゃんの真似をして、俺もツムも袋がパンパンになるぐらいお菓子を入れた。
袋の中を覗くたびにいろとりどりのお菓子が見えると心が弾んで、中身が空になると悲しくなって泣いたりしとった。
でもその当時から姉ちゃんはほんまに優しくて「泣かなくてええんよ、お姉ちゃんのあげるからね」ってお菓子をわけてくれたんや。

確かそこからやと思う。
わざわざ姉ちゃんに頼んで、巾着袋にお菓子を入れてもらうようになったのは。
自分でもできるんやけど、なんでか姉ちゃんに入れてもろた方がめっちゃええもんをもらえたような気持ちになった。
あの頃の子どもやった俺にとってはそれが宝物に思えて、ただのお菓子がキラキラして見えとったんや。

「サムくん、お菓子なんやけど今すぐやなくてもいい?」
「おん、全然かまへんよ」

俺の手から古びた巾着袋を受け取った姉ちゃんが「お預かりします」と丁寧に頭を下げてきたから、俺もつられて「お願いします」と頭を下げてもうた。
姉弟やのに何をかしこまってんのやろっておかしくなって、二人して同じタイミングで小さくふきだした。

それから翌日。
俺の顔を見た姉ちゃんが片手で手招きする。
内心そわそわしながら近寄れば、後ろ手に背中に隠しとったあの巾着袋を俺の前に出して、にこりと笑った。

「えっ、めっちゃ綺麗になっとる…!」
「汚れちゃってたから洗ってアイロンかけたんよ。食べ物入れるんやし、綺麗な方が衛生的にも安全やもん」

お菓子が詰められて膨れた巾着袋は、昨日のくたびれようからは見違えるように綺麗になっとった。
薄汚れがとれて元の色地がちゃんと出とるし、ついてたシワもなくなっとる。
ああそうか、このために姉ちゃんは時間を欲しがったんやな…。
なんかもう姉ちゃんの優しさに涙出そうやねんけど…。

「中身、見てもええ?」
「うん、どうぞ。お姉ちゃんチョイスやから、サムくんの気に入ったものがあればええんやけど…」
「姉ちゃんが選んでくれるもんにハズレなんかあらへんよ」

ほんまになんでもええんやで。
そう心の中で思いながら、巾着袋の紐を緩めて中を覗いた。
チョコに飴にグミ、ラムネにビスケット。
他にもいっぱい入っとる。
あの頃と同じ、いろとりどりのお菓子が俺の胸を高鳴らせた。

「ふふっ、サムくんのその顔は昔と変わらへんね」
「俺、どんな顔しとるん?」
「宝物を見つけたみたいな顔」

眩しいもんを見るみたいに優しく瞳を細めて笑った姉ちゃんが、俺の頬をその手で愛おしげに触れた。
小さいのに愛がいっぱい詰まっとって、あったかい俺の大好きな姉ちゃんの手。
あかんなぁ、幸せがあふれてとまらへん。

「せやで、俺の宝物やもん」

ふにゃりと破顔して笑っとる俺の顔が姉ちゃんの瞳に映っとった。




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