たまには雨も悪くない



姉ちゃんがバイトに行ってしばらくしてから雨がふりはじめた。
俺がハッとして玄関を確認しにいくと、そこにはやっぱり姉ちゃんの傘がきちんと傘立てに入ったまんまやった。
そらそうや、お天気キャスターも雨予報なんて言うてなかったしな。

「サム、どっか行くん?」
「姉ちゃんの迎え行ってくるわ。そろそろバイト終わる時間やし、姉ちゃん傘持って行かへんかったから」
「えっ、がっつり雨ふっとるのに傘ないのあかんやん。ちょお待て、俺も行くわ」

別に2人で迎えに行く必要はないんやけど、姉ちゃんのことになるとツムはなかなか引き下がらへんから(まあ俺もやけど)あえて止めはしなかった。
ここで時間食って、姉ちゃんの迎えに間に合わなかったなんてことになる方があかん。
せやから姉ちゃんの傘を持って2人で外に出た。

姉ちゃんのバイト先は俺らの家から徒歩15分圏内にあるコンビニで、基本的には平日に2回・休日に1回の週3でシフトが入っとる。
今日は休日やから午前中勤務で昼すぎには終わる予定や。

「…なあ、なんか雨やんでできてへん?」

ビニール傘ごしに空を見上げたツムと同じように俺も空を見ると、確かに雨の量はパラパラ程度になっとった。
しかも空が明るくなってきとるから、これはもうすぐやむやつで、どうやら今回の雨はゲリラ的なやつやったらしい。
でももう姉ちゃんのバイト先まであとちょいやし、ここまで来て引き返すのもあれやから、そのまま姉ちゃんを迎えに行くことにした。

「あ、なまえちゃんや!」

俺らが着くころにちょうど店から出てきた姉ちゃんを見つけたツムが大きく手を振る。
俺らの方を見た姉ちゃんは目を丸くしとった。

「ふたりともどうしたん?お買い物?」
「いや、雨ふっとったから姉ちゃんに傘持っていかなあかんと思って迎えに来たんやけど…」

雨はすっかりやんで雲の隙間から青空が見えとった。
俺もツムもさしていたビニール傘をもうとじとるし、持ってきた姉ちゃんの傘やってこの天気なら使う必要あらへん。
なんや、かっこ悪いことになってしもたな。
密かに姉ちゃんに気が利く良い男アピールができるんやないかと思っとった自分がはずいわ。

「そうやったんや、わたしのこと心配して来てくれたんやね。ほんまにありがとう、サムくんとツムくんは優しいね」

嬉しそうに笑った姉ちゃんが俺の手から自分の傘を受け取って、大事そうに両手でぎゅっと持った。
ちゃんとこっちの気持ちごと受け取ってくれる姉ちゃんの方がうんと優しいと俺は思う。
それに姉ちゃんからのありがとうはご褒美みたいなもんやから、その一言をもらえるだけで嬉しくてこそばゆくなる。

「あ、ふたりはお昼もう食べたん?もしまだやったら、どこかでご飯食べて行かへん?この間お給料日やったから、お姉ちゃん今お金持ちなんよ」
「えっ!なまえちゃんのおごり!?」
「姉ちゃんほんま好き!愛しとる!」

昼飯は帰ったら姉ちゃんになんか作ってもらおうと思っとったんやけど、その姉ちゃんが外食をおごってくれると言うから、ふたりして子どもみたいにわーっと喜んだ。
バレーに時間をあてるためにバイトしてへん俺とツムは毎月の少ない小遣いでやりくりしないとあかんから、外で食う時はやっぱり財布の中身をどうしても気にしてまうねん。

「行くなら駅前のファミレスにせぇへん?あそこのハンバーグはボリュームあってしかもうまいし、デザートも豊富やから姉ちゃんも好きなとこやん」
「ハンバーグええな、ライス大盛りにしてデザートにジェラート頼むわ」
「俺はデザートは季節限定のおさつパフェ食うて決めとる」
「そんなのあるんやね。パンケーキにしようかと思っとったけど、パフェもおいしそう」
「ほんなら俺のと姉ちゃんの半分こすればええよ」
「はあ!?サムだけせこいやろ!俺もなまえちゃんと半分こして食いたい!」
「ツムは姉ちゃんの食べとるもんがほしいだけやん」

俺とツムの間に姉ちゃんを挟んで、3人並んで雨上がりの道を歩いて駅前に向かった。
雨に濡れた景色は太陽の光を浴びるとキラキラしとって、柄にもなく綺麗やなって思った。
たまには雨もええな。




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