揺れるスノーマンのハート



ふわりふわりと、何かが降ってきたと思ったら雪だった。
どうりで今日の寒さはこたえるわけだと首をすくめながらマフラーに口もとを隠しつつ、雪降るなんて聞いてねぇよとため息をひとつ漏らす。

傘は持ってない。
これが雨ならコンビニでビニール傘を買ったかもしれないけど、雪ならあとで体をはたいて落とせばいいかと思って両手は制服のズボンのポケットに突っ込んだまま歩いてた。

「角名くん?」

やわらかいソプラノボイスが耳に届いて、ふと足を止めて視線を傾けると、すぐそこのコンビニから出てきたらしい双子のお姉さんと目が合った。
俺と違ってその手にはちゃんと傘がある。
なまえさんは丸くした目を数度瞬かせたあと、くすりと小さく笑って、少しだけ眉尻を下げながら俺のもとに歩み寄ってきた。

「角名くん、スノーマンみたいやね」

え、スノーマン…?
みたいやねってなに…?
意味がわからずにいる俺を見上げたなまえさんはやっぱり笑ってて、それから「傘、持ってないん?」って言いながら俺の肩とか腕についてる雪をぽんぽんってはたいてくれた。
ああ、スノーマンってもしかして…。

「髪にもいっぱいついとるよ」
「まじっすか…」

ズボンのポケットから出した片手で自分の髪をはらったり、軽く頭を振ってみたりして雪を落とす。
どうやら思っていた以上に俺は雪にまみれていたようで、要するにその姿がなまえさんの目にはスノーマンみたいに見えたってことなんだろう。

「とれました?」
「あとここかな。角名くん、ちょっと屈んで」
「あ、はい…」

俺はなまえさんに言われるがまま身を少し屈めた。
なまえさんの手が俺の髪に優しく触れる。
ただ雪を落としてもらってるだけなのに、なんだか頭を撫でられているような気分になってむず痒い。

「うん、もう大丈夫」
「アリガトウゴザイマス…」

にこりと笑うなまえさんはなんとも思ってないみたいだけど俺は気恥しくて、ふいっと視線をそらしてしまった。
自分から頭を差し出しといてあれだけど、これはちょっと気まずい。
どうしようかな…って頭の中で考えてたら、ふと視界が陰った。
見ればなまえさんが広げた傘を俺に傾けてて、今度は俺が目を丸する。

「傘ないんやったら、一緒に帰ろうよ」

そう言葉をかけてくれるなまえさんの優しさに心が少しだけ揺れた。
俺は侑や治とは違って弟じゃないんだけど、この人の優しさに触れると俺までも甘えてしまいたくなる。
頷くことを躊躇してる俺の顔をのぞきこむなまえさんに「ね?」ってまたにこりと笑いかけられて、俺はいよいよ諦めて彼女の優しさに身を委ねることにしてしまった。

「…じゃあ、傘持つんで貸してください」

せめてこれぐらいはと片手を差し出すと、なまえさんは瞳を柔らかく細めて「ありがとう」と傘を俺に託してくれた。
そう言えば、今日は双子はいないんだな。
あいつらに見つかると面倒だから良かった、なんて思った矢先。

「おいコラ角名ァ」
「ひとんちの姉ちゃんと何しとんねん」

いるんかーい…。

コンビニから真新しいビニール傘と豚まんを持って出てきた双子。
すげぇ睨みきかせてきて輩かよ。

「言っとくけど、俺は誘われた身だからね」
「は?」
「角名くんね、傘持ってないんよ。だから一緒に帰ろうってわたしが言うたの。ダメやった?」
「いやダメやないけど、なんで姉ちゃんの傘に角名が入るん…?」
「せや、傘ないなら角名も買えばええやん…?俺らやって買ったんやし…」
「それはほんまにごめんね、サムくんとツムくんを一緒の傘に入れてあげるのはさすがに難しかったから…」

ああ、なるほどな。
俺と同じで傘を持ってなかった双子はどっちが姉ちゃんの傘に入れてもらうかで恐らくだいぶ揉めたんだろう。
どっちかを入れれば、残された片方は絶対にふてくされて余計に面倒なことになる。
だからなまえさんは弟2人に新しい傘を買わせたんだと思う。

まあでもそれはそれ、これはこれだ。
なまえさんが俺を傘に入れてくれるって言ってるんだから、双子には悪いけどわざわざそれを断ってまでして俺が傘を買いに行く必要はない。

「なあ!どう考えても角名となまえちゃんが相合傘すんのはおかしいやろ!」
「角名!俺の傘貸したるから代われ!」
「駅前でどうせ別れるし、そこまで行ったら傘貸してよ。そうしたら、ここ譲るから」
「言うたな!?貸すから俺に譲ってや!」
「おい!先に貸す言うたのは俺やぞ!」

また揉め始めた双子の前をなまえさんと並んで歩きながら、ちらりと横を見たら「今度から折りたたみ傘も持ってこようかな…」って呟いてて、やっぱり双子の姉ちゃんって大変だなって思った。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -