この一掴みの奇跡を噛み締めてゆく



「倫くんはもういらないの。バイバイ」

ハッ…!と目が覚めた。
勢い良く上体を起こして浅くなってる呼吸を落ち着かせる。

最悪な夢を見た。
なまえ姉に捨てられる悪夢。
夢の中のなまえ姉は俺じゃない違う男に寄り添っていた。
俺がなんで?どうして?って聞いたら、なまえ姉は優しい顔して、でも「倫くんよりもこっちが良いの」って残酷な言葉で俺の胸をズタズタに切り裂いていったんだ。
俺が何度待ってと呼び掛けても、知らない男と歩いて行ってしまうなまえ姉はもう振り向いてもくれなくて…。

気付いたら目からぼたぼたと涙が溢れてた。
えぐっえぐって嗚咽が止まらない。
ズキズキ痛む胸をスウェットの上からぎゅうっと掴んで抑えて、まだ夜中だと言うのに今にも叫んでしまいそうだった。

「んっ…、りんくん…?」

同じベッドで寝ていたなまえ姉が目を覚ました。
泣いてる俺を見たなまえ姉は当然驚いて飛び起きて、どうしたの?何があったの?って俺の背中をさすってくれた。

「具合悪い…?大丈夫…?」
「ひぐっ…ぅ…やな、ゆめ…みだ…っ」
「嫌な夢…?」
「なまえ姉にっ…す、すてられて…っ、バイバイって…」

泣きすぎて上手く喋れない。
こんな子どもみたいでみっともない姿も嫌なのに、泣き止みたくても全然涙は止まらなくてどうにもできなかった。

だけど、そんな俺をふわっと優しく抱き締めてくれたのは紛れもないなまえ姉で。
その柔らかな胸元に俺の頭を抱き寄せて髪を撫でてくれた。

「大丈夫だよ、私はここにちゃんといるよ」
「、っ…」
「夢の中の私は偽物。私が倫くんを置いてどこかに行っちゃうわけないよ。こんなに大切なのに」

涙でぐちゃぐちゃに濡れた俺の頬に手を添えて、そっと上を向かせたなまえ姉は俺と目を合わせて微笑んだ。

「大好きだよ。何よりも倫くんを愛してる」

俺も、俺もだよ…って言いたかった。
でも泣いてしまって言葉にできなかった。
なまえ姉の胸の中で泣きじゃくる情けない俺。
だけどなまえ姉はいつまでも俺から離れずに寄り添ってくれて、俺が泣き止むまでずっとそうしてくれたのだった。

あれからしばらくして、ようやく落ち着いた俺はなまえ姉に差し出されたティッシュを手にズビーッと鼻をかんだ。
やばい…泣きすぎて目が重い…。

「大丈夫?ティッシュ足りた?」
「ん…大丈夫…。ごめん…なまえ姉…」
「ふふ。倫くんが泣いててびっくりはしたけど、でも理由が可愛いかったからちょっとほっこりしちゃった」
「いや…可愛いくないでしょ…。ド深夜に隣で号泣してる男とか、クソ迷惑じゃん…」
「そんなこと思わなかったよ?」
「逆になんで思わないの…?」
「だって倫くん、私のこと本当に大好きなんだなぁっていっぱい伝わってきたから」

嬉しかったって、ふんわり笑うなまえ姉に胸がきゅうって甘く切なくなって、またポロリと泣いてしまった。

「よしよし、今日の倫くんは泣き虫さんだね」
「っ…ぅ、…なまえ姉のせいだから…っ」
「うんうん、ごめんね。私がぜーんぶ責任取るよ」
「そう、だよ…っ…俺、もうなまえ姉居ないと生きてけないんだからっ…は、離れたりしたら俺、死ぬからっ…」
「大丈夫。ずっと一緒に居るから倫くんは生きられます」

こんなめんどくさくて重い俺を笑顔で優しく受け止めてくれるなまえ姉が好き。
大好き。愛してる。
なまえ姉が隣に居てくれる限り、俺は明日も明後日もその先も健やかに生きていけるのだ。



この一掴みの奇跡を噛み締めてゆく




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