どこかへ行こうよ
どこへだって連れていってよ




『角名の姉ちゃんツムと歩いとったけどええの?』

休日に治からラインが届いた。
証拠写真も一緒に。
今日なまえ姉は出掛けている。
友達とショッピングに行くのだと言っていた。
それを俺は信じて疑わずに笑顔で送り出した。

『デートにしか見えへんのやけど、あれ大丈夫なん?』

治が追い討ちをかけてくる。
大丈夫なわけない。
なんで侑がなまえ姉とデートしてんの?
なんでなまえ姉は俺じゃなくて侑と一緒にいるの?
もやもやした感情が渦巻いて心が暗く陰る。
俺は返信する気力を失って、既読のみでラインを閉じた。

それから日が暮れた頃になってなまえ姉は帰って来た。
明かりもつけずに玄関で膝を抱えて座り込んでる俺を見たなまえ姉は目を丸くして驚いていた。

「倫くんどうしたの、こんなところで…」
「男と出掛けるなんて聞いてない…」
「えっ?」
「これなまえ姉と侑だよね…」

なまえ姉にスマホを突き出して、例の写真を見せた。

「こんなの…誰がどう見たってデートじゃん。俺のことは置いてけぼりにして、何してんの?」
「あ…えと、倫くん落ち着いて。違うんだよ、これはね…」
「何が違うの?嘘つかないでちゃんと説明してよ」
「う、うん、説明するから部屋で話そう…?」

なまえ姉に促されて部屋に戻る。
パチッと明かりをつけたなまえ姉の手にはショップのものらしき紙袋がかかってて、それが今日侑と買ったものだってわかっちゃったから余計に嫌な気持ちになった。

「侑くんと出掛けてたのは本当。ごめんね内緒にしてて…」

無気力気味にベッドに腰をおろした俺の目の前で床に両膝をついたなまえ姉が申し訳なさそうな顔で見上げてくる。

「でもデートじゃないよ、嘘じゃない」
「そんなの、どうやって信じろって言うの…」
「全部話してあげたいけど、今はまだ待って欲しくて…」
「っ、何それやっぱ俺には言えないようなことなんじゃん」
「倫くんあのね、本当に変な意味じゃなくて…」
「じゃあどういう意味なんだよっ…」

ぐっと奥歯を噛み締めてなまえ姉の顔を見た。
油断すると泣いてしまいそうだった。
男のくせに格好悪いけど、でもそれぐらい好きなんだよ…。
それなのに、なんでなまえ姉は他の男なんかとっ…。

俺の顔を見つめたなまえ姉はどうしようって困惑気味に眉尻を下げながら少し悩むような素振りを見せて、それから「ごめんね倫くん、今からちゃんと話すから…」とあの紙袋を俺の足元に引き寄せた。

「本当はちゃんとした日にサプライズしたかったけど…」
「サプライズ…?」
「うん。ほらもうすぐ倫くん大きな大会があるって言ってたでしょう?だからこれ、買いに行ってたの」

紙袋の中から出てきたのは新しいシューズにサポーター、それからウェアにタオルとバレー用品ばかりだった。
え…これを侑と買いに行ってたの….?

「スポーツ用品店なんてあんまり行ったことないし、どれが良いものなのかも私にはよくわからないから、バレー部の侑くんに相談してたの。そうしたら、実際に見て選んだ方が絶対良いからって一緒にお店までついて来てくれてね」

なまえ姉はひとつひとつ俺を安心させるように今日のことを丁寧に話してくれた。
全ての理由を知って唖然とする俺。
なんだ良かった…って安堵する気持ちと、やってしまった…と後悔と罪悪感が押し寄せる。

「ごめんね、倫くんにこんな悲しい顔させたかったわけじゃなかったのに…」
「ちがっ…俺が、勘違いしてっ…ごめっ…」

もうなんの感情かわからないけど、涙がボロボロこぼれた。
俺のためにありがとうって、疑ってごめんって、言わなきゃいけないことがたくさんあるのに全然言葉にできない。
涙ばかりが溢れるばかりで、こんな子どもみたいに…。
でもなまえ姉はこんな俺のかっこ悪い姿を見ても、柔らかく微笑んでその腕で俺をぎゅっと抱き締めてくれた。
背中をぽんぽんって撫でてくれる手はどこまでも優しい。

「倫くん、泣かないで」
「ぅ、…ごめっ…ほんと、…っ」
「私の方こそいっぱい不安にさせちゃってごめんね。侑くんとデートみたいになっちゃって嫌だったんだよね」
「っ…ん、…嫌だった…、死ぬほど嫌だった…っ」

なまえ姉にぎゅうっと抱きついて、その肩口に顔を埋めてめちゃくちゃ泣いた。
泣きながら必死に、他の男と出掛けないで、例え俺のためでもやめてってお願いしちゃう俺は重たい男かな…。

「ねえ、倫くんお顔上げて?」
「無理…今、ひどい顔してる…絶対引く…」
「引かないよ。だから、ね?」
「………俺のこと、嫌いにならない…?」
「なるわけないよ。私、倫くんのこと大好きなんだよ?」

大好き。
その言葉に心が揺さぶられて、俺は顔を上げた。
俺の濡れている頬を包み込むようになまえ姉のあたたかい手が触れて、親指でそっと目尻をなぞられる。
涙で滲んだ視界の先にはなまえ姉の優しい笑顔があった。

「今日みたいなこと、もうしないって約束する」
「ほんと…?」
「うん。でもサプライズしたい時はどうしたら良い?」
「俺に言ってくれれば教えるし…一緒に買いに行くし…」
「ふふっ、それはもうサプライズじゃないけどね」

そう言って笑ったなまえ姉につられて俺も笑みをこぼす。

「あの、明日さ…なまえ姉とデートしたい…」
「デート?」
「侑だけなんてずるいから…」

ダメかな…?って一応顔色をうかがうと、なまえ姉はふわりとまた笑って「どこ行こっか?」って言ってくれた。
なまえ姉と一緒ならどこでも良い。
でも一秒も無駄にしたくないから俺調べるよ。
絶対に楽しいデートプラン作ってみせるから。

「そうしたら、今夜はちゃんと冷やして寝ないとね」
「え?」

目、腫れちゃうぞ?ってイタズラっぽく笑ったなまえ姉が俺の泣いて腫れた瞼にちゅっとキスを落としていった。



どこかへ行こうよ
どこへだって連れていってよ




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