期待で弾け飛ぼう



洗濯をしたタオルとビブスを干し終えた宮さんがぐっと腕を上げて体を伸ばしている姿が見えた。
俺が声をかけると、彼女はこちらに振り返って「北くん、お疲れ様」と笑顔を向けてくれる。

宮さんに男バレの臨時マネを依頼したのが数日前。
合宿期間だけ手を貸してほしいと俺が頼んだのだ。
連日の慣れない仕事にさすがに宮さんも疲れているはずなのに、彼女は決してそれを顔に出さない。

「どうかした?」
「いや、手が空いたから手伝おうと思ったんやけどもう終わっとったわ。宮さんは仕事が早いなぁ」
「こういうことだけだよ。他は全然でみんなに教えてもらってばっかりやったもん」
「初めてのことやるんやから聞いて当たり前や。ほんまは俺が説明せなあかんかったのに、それがなかなかできへんでごめんな」
「ううん、北くんは主将さんやもん。見てて忙しいのわかるから大丈夫だよ」

ほら、またニコって笑う。

「宮さん、疲れたって言うてもええんやで」
「えっ?」
「練習が終われば双子も疲れた言うし、角名なんて練習中でも呟いとるし、俺やって今日みたいなハードなスケジュールやと疲れたって思う」
「北くん…」
「マネだけ違うなんてことない、みんな一緒やで」

きょとんと丸くなった宮さんの目が俺を見上げる。
そしてホッと力が抜けたよう眉尻が下がった。

「うん、疲れた…」
「おん」
「すっっっっっごく、疲れた…!」

わっと本音を声を出した宮さん。
「すごく」の部分をあまりにも溜めて言うものだから、ふはっと思わず笑ってしまった。

「足も腰も痛いし、飛んでくるボールは怖いし…」
「ん、せやな。ふふっ…」
「途中で曲がって落ちてくるボールが特に怖くて…って、北くん笑いすぎ」
「いやごめん、サーブ練の時に確かにビビっとる顔しとったなって思い出してもうて」

笑う俺につられて宮さんの表情も柔らかくなって、ついには一緒になって笑っていた。

ああ、楽しい。
こんな日がずっと続いたらええのに。

合宿も明日が最終日。
それが終われば宮さんのマネージャー業も終了。
また俺と彼女は同学年の友人の関係に戻る。

「マネージャー向いとると思うんやけどな」
「ふふ、ありがとう。でも普段はバイトがあるし、ずっとはできないんよ」
「おん、わかっとる」
「でももし、またどうしても手が必要になった時は言ってね。バイトの方、できる限り調整するから」
「なんで…」
「うん?」
「宮さんはそこまで協力してくれるん?」

俺は何を聞いているのだろう。
宮さんが優しい人であることはわかっているのに。
俺が困っているから彼女は手を貸してくれたのだ。
それだけだ、もうわかってるじゃないか。

「北くんだから」
「…え?」
「私ね、北くんの力になりたいんよ」

みんなじゃなくて、俺のために?

なんやそれ…
そんなん言われたら…

嬉しくなるに決まっとるやんか。

「あれ?北くん、また笑っとる?」
「いやこれは…あかん、あんま見んといて」

彼女から顔を逸らして、口もとを片手で隠す。
笑っていると言うより、これはにやけだ。
自分の頬がゆるゆるになっているのがわかる。

彼女の特別に俺はなれとるんやろうか。
そう捉えるのは都合が良すぎやろうか。

でも今日ぐらいは多少の自惚れも許されたい。



期待で弾け飛ぼう




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