尽くされた日々の数だけ



保健室のベッドで眠るなまえ姉の寝顔を俺は見つめていた。

具合が悪いなら言ってくれれば良かったのに…

俺ってそんな頼りない?

ハア…とため息。
俺となまえ姉は実家を離れて兵庫でアパートを借りて、親の仕送りを受けながら二人暮しをしている。
なまえ姉はいつも自分がお姉ちゃんだからって家事とか全部一人で頑張ろうとする所があって、体調が悪くてもあんまり口にしない方だ。
俺だって子どもじゃないし、なまえ姉の力になれるのに、どうして甘えてくれないんだろうって思う。

お姉ちゃんって生き物は難しい…

「なんや、角名おったんか」

!?

北さん!?

保健室のドアを開けて中に入ってきたバレー部主将。
なんで北さんが…?と、別に何も悪いことしてないのに焦る自分がいる。

「これ、姉ちゃんのカバンや」
「えっ、なんで北さんがなまえ姉の…」
「俺と角名さん、委員会が一緒やねん。集まりの日が急遽変更になったから伝えよう思ってクラスに行ったら保健室や言われてな。だからついでに預かってきた」

なるほど…と納得しながらも、他クラスの女子のためにわざわざカバンを届けに来た理由は本当にそれだけなのだろうかとつい疑ってしまう。
でもだからと言って北さん相手に探りを入れるなんてことはできず「アリガトウゴザイマス…」とぎこちなくお礼を言ってなまえ姉のカバンを受け取った。

てか、この空間に北さんと二人はきつい…

養護教諭はどこ行ったんだよ…

「ほな、俺は先に部活行くけどお前は姉ちゃんが起きるまでそばに居てやり」
「あ、はい…すみません」
「ええよ。角名さん起きたら、あんま無理せんように言うといてや。あとお前は弟なんやから、もっと姉ちゃんのことちゃんと支えてやらなあかんで」
「、ウッス…」

北さんの言葉がズシンと胸に重く響いた。
もっと、ちゃんと、弟の俺が支えてやらないと。

そんなこと、わかってる…

でも北さんに改めて言われると、なんも言い返せねぇ…

「わかっとるならええねん、過ぎたこと言うてごめんな」
「えっ、いや…」
「ただ弟だからこそ多少強引にいっても許されることってあるやろ。俺とお前じゃ、そこんとこが違う」

「弟特権ってやつやな」と北さんはそんな言葉を残して、保健室を出て行った。

今、北さん笑ってた…?

つか、弟特権ってなに…?

あの人やっぱ苦手だ…

「、んっ…」
「!なまえ姉…!」

よかった、起きた…

顔色も良くなってる…

ベッドを覗き込むと寝起きのとろんとしたなまえ姉の目が俺を見上げた。
そして、ゆっくりと瞬きを繰り返す。

「あら、角名さん起きた?ごめんなさいね、長いこと席を外しちゃって」
「あ…先生、ごめんなさい…ただの貧血だったのに、ベッドお借りしちゃって…」
「いいのよ、そのための保健室だもの」
「倫くんもごめんね…。あ、カバン持ってきてくれたんだ…?」
「いや、これは北さんが…」
「北くん…?そっか、今日委員会の集まりだったから…」
「その集まり、日程変更になったから大丈夫。…って、これも北さんからの言付け」

そうなんだって、安心したように微笑むなまえ姉を見て複雑な気持ちになった。
さっきから北さんばっかりだ。

「なまえ姉、あのさ…今日部活終わったら、俺が買い物して帰るから」
「えっ?でも、倫くん…」
「角名さん、弟くんがこう言ってくれてるんだから甘えたら?」

そう、甘えていいんだよ

俺達は姉弟なんだからさ

「本当にいいの…?お肉とか、どれ選べば良いとかわかる…?」
「心配しすぎでしょ…。大丈夫だから、なまえ姉は帰ったら家で休んでてよ」
「う、うーん、でもやっぱりわたしも一緒に…」
「ダメ、家から出て来たら怒るからね」
「そんな…、うう…先生どうしよう、これってお姉ちゃん離れですか…?」
「…なんでそうなんの?」
「しょうがないのよ、お姉ちゃんは弟を甘やかしたいものだから」
「ええ…」

お姉ちゃんって生き物はやっぱり難しい…と首を傾げるしかない。
とりあえず、しゅんとしているなまえ姉に「俺は一生お姉ちゃんっ子だよ」と養護教諭の前で何言ってんだってことを口にして言い聞かせた。

それから校門までなまえ姉を見送って、俺は部活へ向かった。

「なあ、今日の帰りスタバの新作飲みに行かへん?」
「パス。俺、スーパー寄らないといけないから」
「スーパー?そんなんスタバの後に行けばええやん」
「惣菜無くなるから無理」

えっ、角名は主婦にでもなったん…?

即答した俺に双子は困惑していた。



尽くされた日々の数だけ




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