03



階段を降りてたどり着いたボイラー室。
ドアを開けるとこもった熱気を全身に感じた。

奥に誰かいる。
それから黒くて小さい生き物がたくさん。

「あ、あの…すみません…」

アランと言う人はあそこに居る人だろうか。
薬草をすり潰しているハーフ顔の男の子に声をかけてみると、こちらを向いた彼はぎょっとした表情になった。

「なんで人間がこないなとこおんねん…」
「ぁ、えっと…北と言う人に言われて、来ました…」
「…北に?」
「こ、ここで働かせてください…お願いしますっ…」

北くんに言われた通りにしようと思った。
でも、頭を下げてお願いしたけど彼は首を捻って渋い反応。

「ここで働かせてください…!」
「そうは言うてもなぁ…ここはもう手が足りとんねん」

彼が指さしたのは先程からせっせと石炭を運んでいる黒い生き物だった。
この子達のことはススワタリと呼ぶそうだ。

「見てわかる通り、そこら中ススだらけやろ?」
「ぁ、…」

確かにこれだけのススワタリがいるのだから、本当に手は足りているのだろう。
でもこのまま引き下がるわけにもいかない。
どうしよう、どうしたら良いのだろう。

ふと一匹のススワタリが私の目に止まった。
石炭を運ぶのに失敗して、石炭の下敷きになってしまっている。
私は思わず手を伸ばして、石炭を持ち上げた。
地面からポコっと復活したススワタリが私を見上げる。
でもその子は私に石炭を持たせたままどこかへ行ってしまった。

「人の仕事とったらあかんやろ。こいつらは働かへんと魔法が消えてただのススに戻ってまうんやで?」
「えっ…」

私の手からひょいと石炭を取り上げた彼はそれを釜へと投げ入れた。
「それがこの世界のルールや」と言われて、私は何も言えずにうつむくことしかできなかった。

足元には相変わらずせっせと働いているススワタリ達がいる。
時おり私の方を見たり、私の足元に石炭を置いていったりする子もいて、そこでハッと気づいた。

もしかして、私に仕事をくれようとしてるの…?

「コラ!お前ら何しとんねん!仕事しろや!」
「ギギ!ギギ!」
「なんやと!?いっちょまえに文句言いよって!」

「失礼しァーッス!飯持って来ましたー!」

ススワタリ達が抗議の声を上げ始めたと思えば、ガララ!とボイラー室の奥の引き戸が開かれた。
人が入って来た為、私は慌てて影に身を隠す。

「!おお…銀か」
「また揉めとったんすか?」
「いやその…おい!お前ら休憩や!飯食え!」

休憩と聞いた途端、ススワタリ達が石炭をその場に置いてご飯を持って来た男の子の足元へいっせいに集まった。
男の子が笑いながら地面に金平糖をまく。
その様子を私はドキドキしながら息を潜めてじっと見ている。
すると、「ん?」とこちらに動いたその目とバチッと視線がぶつかってしまった。

「はっ!?人間!?なんでこないなとこに…!さっき上で大騒ぎしてたで…!?」
「っ、」
「あ、あー…その子な、実は俺の妹なんや」
「妹!?いや、全然似てへんし無理ありますわ!」
「まあ、その…色々事情があんねん!とりあえず、ここで働きたい言うとるから頼むわ!」
「は…?頼む…?」
「銀、お前が侑のところに案内してやってくれ」
「ええ゛ッ!?なんで俺!?妹の面倒なら自分でみてくださいよ!」
「そこをなんとか!案内だけでええから!な?後は自分でやるやろうし」

チラリと視線を寄越され、私は慌ててこくこくと頷いた。
いつ妹なんてことになったのかわからないけど、これはチャンスだ。
銀と呼ばれた男の子に私も頭を下げる。

「〜〜〜っ!クソ、しゃあないな…!連れてったるからついて来ぃや!」
「!あ、ありがとうございます…!」
「ええからはよ靴脱げ!あと靴下も!」
「は、はい…!」

銀くんに急かされて慌てて靴と靴下を脱いだ。
せっかちなのかさっさと先を行ってしまう銀くんの後を追う。
でもその前にこのボイラー室の主、アランくんにもお礼を言いたくて、一度立ち止まって頭を下げた。

「本当にありがとうございました」
「ええって。俺はこんぐらいのことしか力になってやれへんのやし。ああ、ちなみにここで働くには侑との契約が必須やから頑張ってな」

あいつほんまええ性格しとるから、とアランくんは遠い目をしながら乾いた笑いをこぼしていた。




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